2.信じてたのに

5/11

1501人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
 遠ざかっていく律顕(りつあき)の寂しそうな背中に、美千花(みちか)は「待って」も「行かないで」も「ごめんなさい」も言えなかった。 ***  その日を境に、律顕(りつあき)の帰りが以前にも増してぐんと遅くなったことをふと思い出した美千花だ。  今日、本当は蝶子(ちょうこ)にそのことも相談したかったのだけれど。  何となく言い出せる雰囲気じゃなくて話せなかった。  ばかりか、自分の律顕に対する冷たい態度への彼からの反応を聞かれたとき、「分からない」と言う曖昧な言葉で誤魔化してしまった。  恐らく蝶子に話した通り、律顕は怒ってはいないと思う。  でも。 (愛想は尽かされたかも)  美千花はそれを認めるのがものすごく怖いのだ。  現状、夫のことを生理的に受け付けられない癖して、律顕に対して身重な自分を置き去りにしないで?と至極身勝手な甘えを抱いてしまう。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1501人が本棚に入れています
本棚に追加