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遠ざかっていく律顕の寂しそうな背中に、美千花は「待って」も「行かないで」も「ごめんなさい」も言えなかった。
***
その日を境に、律顕の帰りが以前にも増してぐんと遅くなったことをふと思い出した美千花だ。
今日、本当は蝶子にそのことも相談したかったのだけれど。
何となく言い出せる雰囲気じゃなくて話せなかった。
ばかりか、自分の律顕に対する冷たい態度への彼からの反応を聞かれたとき、「分からない」と言う曖昧な言葉で誤魔化してしまった。
恐らく蝶子に話した通り、律顕は怒ってはいないと思う。
でも。
(愛想は尽かされたかも)
美千花はそれを認めるのがものすごく怖いのだ。
現状、夫のことを生理的に受け付けられない癖して、律顕に対して身重な自分を置き去りにしないで?と至極身勝手な甘えを抱いてしまう。
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