2.信じてたのに

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 気持ちがすっかり〝やおまさ寄り道気分〟にシフトした美千花(みちか)は、家とは少し離れてしまうけれど、カフェや蕎麦屋や小料理屋などが立ち並ぶ商店街へと足を向けた。 ***  最近は外を出歩く時はニオイ対策でマスクをするようにしている美千花だ。  妊婦である美千花にとって、マスクは感染症予防にもなって一石二鳥だけど、少し動くと暑くて息苦しくなってしまうのが堪らない。 「(あつ)……」  初夏に向かって季節が移ろいつつある時節。陽の当たる場所にいると薄ら汗ばんできてしまう。  美千花は薄手の長袖ワンピースに身を包んでいたけれど、半袖でも良かったかも、とちょっぴり後悔して。  手近にあった電柱に手をついて「ふぅ」と吐息をついた所で、ふと斜め前方の喫茶店の店内に目がいった。 (……(りつ)(あき)?)  律顕は暑い真夏でもホットコーヒーを好んで飲むタイプだ。  夫と(おぼ)しき男性が手にしたカップもホット用のもので、コーヒーを飲むその人の顔にじっと目を凝らして律顕だと確信した美千花は、手を振ろうとして。  そこでふと彼の真正面にアイスコーヒー入りのグラスが置かれているのに気がついて、思わず動きを止めた。
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