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喫茶店で夫と西園稀更の姿を見た日の夜。
美千花はどうしても悶々とした気持ちが抑えられなくて、律顕に話を聞いてみようと夫の帰りを待っていた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
夜の十一時を過ぎて帰宅した律顕を、美千花はパジャマにマスク姿で出迎えた。
外出時にマスクをしていることはあっても、さすがに家の中でマスクをしたことはない。
昼間の一件で、律顕への愛情こそ消えてはいないと確信した美千花だったけれど、彼の臭いへの嫌悪感は未だ消えやらなかったから。
それを抑えるため、マスクを付けて何とか夫に近付こうと試みてみた。
「――美千花、まだ起きてたの? ちゃんと寝ないと身体に障るよ?」
なのに、珍しく玄関先まで出迎えてきた美千花に、律顕は明らかに困ったような顔をしてそう言った。
いつも家でマスクなんて付けていない美千花なのに、そのことを指摘しようとすらしない律顕に、美千花は不安を募らせる。
(律顕はもう私に興味を失くしてしまったの?)
ふとそこで、昼間見た西園稀更へ向けられた律顕の笑顔を思い出した美千花は、半ば無意識。
妊娠前のように彼の荷物を受け取ろうと律顕に近寄って。
戸惑ったように立ち止まった律顕に、距離を置くように一歩退かれてしまった。
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