2.信じてたのに

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***  喫茶店で夫と西園(にしぞの)稀更(きさら)の姿を見た日の夜。  美千花(みちか)はどうしても悶々とした気持ちが抑えられなくて、律顕(りつあき)に話を聞いてみようと夫の帰りを待っていた。 「ただいま」 「お帰りなさい」  夜の十一時を過ぎて帰宅した律顕を、美千花はパジャマにマスク姿で出迎えた。  外出時にマスクをしていることはあっても、さすがに家の中でマスクをしたことはない。  昼間の一件で、律顕への愛情こそ消えてはいないと確信した美千花だったけれど、彼の臭いへの嫌悪感は未だ消えやらなかったから。  それを抑えるため、マスクを付けて何とか夫に近付こうと試みてみた。 「――美千花、まだ起きてたの? ちゃんと寝ないと身体に(さわ)るよ?」  なのに、珍しく玄関先まで出迎えてきた美千花に、律顕は明らかに困ったような顔をしてそう言った。  いつも家でマスクなんて付けていない美千花なのに、そのことを指摘しようとすらしない律顕に、美千花は不安を募らせる。 (律顕はもう私に興味を失くしてしまったの?)  ふとそこで、昼間見た西園稀更へ向けられた律顕の笑顔を思い出した美千花は、半ば無意識。  妊娠前のように彼の荷物を受け取ろうと律顕に近寄って。  戸惑ったように立ち止まった律顕に、距離を置くように一歩退かれてしまった。
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