2.信じてたのに

11/11

1502人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
美千花(みちか)は今、つわりでしんどいだろ? 無理するな」  もっともらしい理由を付けられたけれど、美千花を避けるみたいな態度を取った律顕(りつあき)が、 「さ、美千花は先に寝てて? 僕はシャワーを浴びてくるから」  言って、美千花の横を避けるようにすり抜けてリビングに行ってしまう。 「あの、でも私、今日は貴方に聞きたいことが」  必死に律顕の背中に呼びかけてみた美千花(みちか)だったけれど、その声が聞こえなかったのか、それともあえて聞こえないふりをされてしまったのか。  律顕は美千花の方を振り返ってはくれなかった。  散々律顕を避けてきたのは美千花の方だったのに、いざ律顕に同じようにされると凄く悲しくて。  美千花はマスクのなか、キュッと唇を噛んで涙を堪える。 (ねぇ律顕。どうして私と向き合おうとせず、すぐにシャワーなの? 何かでもあるの?)  マスク越しでよく分からなかったけれど、すれ違う際、律顕から女性ものの香水の香りがした気がして、美千花は自分の負の妄想を、拳をギュッと握って押し潰す。  だけどその後どうしていいのか分からないまま。  風呂場から聞こえてきた流水音をぼんやりと聞きながら、美千花は玄関先に呆然と立ち尽くしていた――。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1502人が本棚に入れています
本棚に追加