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「ごめんね、美千花。どうしても外せない仕事が入ってしまったんだ。――ひとりで行けそう?」
健診予定日の前日になって、カレンダーのメモ書きを指差してそう言ってきた律顕に、〝予約の日時を変更出来るか問い合わせてみる?〟と聞いてはくれないんだなと思った美千花だ。
実際大きな病院の予約日時の変更はそんなに楽ではない。
でも、以前の律顕ならきっと、ダメ元でもそう言ってくれていた気がして。
美千花は律顕の死角になるよう気をつけながら、ギュッと拳を握りしめた。
本当は健診の移動時間や待ち時間を利用して、ずっと話せなかった気持ちを律顕に伝えられたらと思っていたのだけれど。
仕事だと言われてしまったら、引き下がるしかないではないか。
男性にとって仕事が大事なのは百も承知だったし、何より今現在無職の美千花にとって、永田家が律顕の稼ぎで支えられていることは嫌と言うほど分かっていたから。
もちろん貯蓄がないわけではない。
むしろ律顕はかなり稼ぎが良い方だったから、同年代の夫婦の平均より蓄えているぐらいだろう。
でも、今から子供が産まれてくることを考えたら、増やす努力はしても、減らすような事はしたくなかった美千花だ。
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