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「受付番号一四六番のかたぁー。第二診察室へお入りくださぁーい」
ここはこの町で唯一の総合病院。その中の診療科に属する、三〇近い科の中のひとつ『産科・婦人科』の待合室。
三〇㎡ほどの空間に、三人掛けの背もたれ付き長椅子が十ばかり並べられているのだけれど、どの椅子も数人ずつ腰かけていて満員御礼状態。
立っている人もちらほらと見受けられた。
こんな感じで、いつ来ても沢山の人がひしめき合っている印象。
かつては市内に数カ所あったらしい子供が産める施設も、昨今の少子化の影響か、はたまた後継者が育たなかったからか、子供を産むことが出来る産科を有する病院は、ここともう一箇所の個人病院ひとつを残すのみとなってしまったから。
妊娠出産のみならず、婦人科系の手術だって少し大きなものになったらどうしてもここを頼らざるを得ないとあっては、そうなってしまうのも無理はない。
永田美千花は初産なこと、自身の身体が一五一センチと小柄なくせに夫の律顕が、一八〇センチ近い長身なことを鑑みて、総合病院での出産を選んだ。
お腹のなかにいる胎児が、二七〇〇g足らずで生まれた自分に似て小柄な赤ちゃんなら問題ないけれど、もしも三八〇〇g超えで大きく生まれた夫似の子だったなら、うまく産んであげられる自信がなかったからだ。
手にした受付番号を呼ばれて立ち上がったと同時、ほんの少しふらついて。
「美千花、平気?」
即座に横合いから夫の律顕に腰を支えられて優しく問いかけられた美千花は、一瞬だけ眉根を寄せて「大丈夫。一人で行けるから……」と彼の腕をすり抜けた。
美千花は今、第一子を妊娠中だ。
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