1.嫌いなわけじゃないのに

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 九週を過ぎたばかりで見た目は全然妊婦に見えないけれど、身体的にはつわりが物凄くしんどい。  話には聞いていたけれど、においにとても敏感になって、なかでも、ご飯が炊けるにおいが取り分けダメになってしまった。  それに加えて――。  あんなに大好きだった律顕(りつあき)のにおいにも過剰反応するようになった美千花(みちか)は、彼に触れられるのも正直何だかゾワリとして無意識に避けたくなってしまう。  決して律顕のことを嫌いになったわけではないけれど、出来ればそばに寄らずにそっとしておいて欲しい。  普段から、営業という仕事柄か身だしなみにはとても気を遣っていて、今日もスーツにネクタイできっちり決めた長身の旦那は、客観的に見てもとてもかっこいいと思う。  なのに、こんな風に邪見にしか扱えない自分が凄く嫌で。  出来れば妊娠前みたいに優しく接したいのに、どうしてもそうできないことが辛くてたまらない美千花だ。 (ごめんね、律顕)  彼に冷たくするたび、申し訳なさに(さいな)まれるのに、気が付いたら素っ気ない態度を取ってしまっている。  律顕だって、そんな美千花の変化に気付いていないはずはない。  なのに不機嫌になることもなく――。そればかりかまるで自分がいけなかったみたいに謝ってくれるから、美千花は余計に辛いのだ。  妊娠初期の妊婦健診は経膣エコー。  経腹エコーと違って、腹部にジェルを塗ってスキャナーを当てるわけではないので、律顕には診察室まで入ってきて欲しくない。 「一人で行けるからここにいて?」
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