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色々話を聞く内、営業課や製品開発課でバリバリ働いた経歴のある女性だと知った。
総務本部に異動してきたのは、子育てのため、残業を回避したかったからだとも。
入社当時世話になった人だし、全く知らない仲ではない先輩なのだが、今はやはり律顕のことがあって、どうしても色眼鏡で見てしまう。
律顕を親しげに〝律〟と呼ぶのも、美千花の胸をチクリと刺した。
律顕がそんな彼女を〝きさ〟と呼んでいることも、彼と付き合う前に何度か現場に居合わせて知っているから尚更だ。
結婚してからは、律顕は美千花に気を遣ってか、少なくとも美千花の前では〝西園〟と呼ぶようになっていたけれど、先程稀更が律顕を〝律〟と呼んだことからも、二人きりの時は怪しいものだと勘繰ってしまう。
美千花は、そんな愚かな妄想をして勝手に嫉妬する自分が、凄く醜く思えて嫌になった。
「律顕――主人とはよく?」
――話されるんですか?
あえて〝律顕は主人です〟と主張するみたいな言い回しにして、言外に夫との関わりを問う言葉を含ませた美千花に、稀更は淡い微笑みを返してきた。
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