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しばし後、
「美千花さんは私とご主人のこと、どう思ってるの?」
逆に問われて、美千花は言葉に詰まって。
「わ、私は。特に何とも」
――思ってません。
本当は凄く凄く気になっている癖に、それを彼女の前で認めてしまったら負けな気がして。
美千花は一生懸命虚勢を張った。
なのに稀更は、そんな気持ちなんてお見通しみたいに「嘘はダメ」と美千花の言葉を遮るのだ。
そればかりか。
「だってほら、いつだったかな? 私が律と喫茶店にいたの、貴女、見てたでしょう?」
パイプ椅子を引き寄せてそこに腰掛けた稀更が、美千花と視線の高さを合わせてじっと見つめてくるから。
美千花はキュウッと胃の辺りが差し込むのを感じた。
今の稀更は、律顕を〝律〟と呼ぶことを隠す気すらないらしい。
蝶子とランチしたあの日、商店街で彼らを偶然見かけてしまったことは、美千花の心の中だけに仕舞ったはずだった。
律顕にでさえ問えないままに今日まで来てしまったパンドラの箱。
それをいとも簡単にこじ開けて、稀更はその上で「本当に何とも思ってないの?」と再度問いかけてくる。
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