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美千花がコクリとうなずくのを見てホッとしたように「良かった」とつぶやいてから、
「下着とかよく分からなかったから適当に詰めてきたけど……気に入らなかったらごめん。それと……準備するために君の引き出しを勝手に開けさせてもらったよ?」
と眉根を寄せる。
確かに下着類を律顕に見られたと思うと少し恥ずかしかった美千花だけれど、夫婦だからそんなの構わないはずだ。
それに、何より今は緊急事態。
なのにわざわざそんな些末なことを気にして謝ってくれる律顕が、普段からいかに自分に配慮してくれているのかを垣間見た気がして。
「もぉ、そんなの気にしなくていいのに。――ううん。それよりむしろ私のために色々準備して来てくれて本当に有難う」
思えば、自分だって以前はもっと律顕に気を遣っていた気がする。
なのに、いつの間にこんなにも何も言わなくても分かってくれるだなんて、彼の優しさの上に胡座をかくようになってしまっていたんだろう。
「――律顕。何の説明もなく貴方のことを邪険にしてしまっていてごめんなさい。実は私……」
「つわりでしんどかったんだろう? 僕の方こそ美千花の気持ちも考えないで自分の気持ちを押し付けようとしてたよね。本当にすまない」
思えば、稀更と喫茶店で話したと言うあの日からだ。
あんなに美千花に歩み寄ろうとしていた律顕が、不自然なくらい美千花から距離を取るようになったのは。
「ね、律顕。私から逃げてたのって……」
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