1501人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
「ちっ、違っ!」
流れるように滔々と言い募る律顕の暴走を止めるために思わず声を荒げたら、律顕がびっくりしたみたいに「……え?」とつぶやいて言葉を止めた。
あの日だけじゃなくて他の日も。
美千花は律顕に歩み寄りたくてアレコレ頑張っていたのに……。
律顕は律顕で美千花に嫌な思いをさせないことにばかり気を取られて、必死に距離をあけようとしていたんだと気付いたら、「愛想を尽かされたに違いない」と落ち込んで距離を詰められなかった自分にほとほと嫌気がさした美千花だ。
「私、今みたいに律顕と腹を割って話し合いたかっただけなの。あの時は確かにまだにおいに敏感だったから……マスクで緩和しようとして貴方に変な誤解を与えてしまったけれど。……私こそ配慮が足りてなかったね。本当ごめんなさい」
ただ単にちゃんと向き合って、思っていることを洗いざらい話したかっただけなのだ。
「……嘘だろ」
「嘘じゃないよ?」
「今日の健診も……私、本当は一緒に来て欲しかったの。診察待ちの時とか行き帰りの車の中とか……ちょっとでも律顕と話せたらいいなって思ってたのに……」
仕事だと嘘を吐いて、律顕は今日一日どこで何をしていたんだろう?
忘れかけていた疑念が沸々とよみがえってきて、美千花はにわかに怖くなった。
最初のコメントを投稿しよう!