6.優しくて愚かな嘘を乗り越えた先

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「――実はあれがあったからさ、僕は今日、美千花(みちか)に嫌な思いをさせたくなくて一緒に健診に行くのは止そうって思ったんだ」 「そんな……。でも、私、今日は……」 「うん。前回と今回とじゃあ、きみの体調や心持ちに変化があった。なのに僕は西園(にしぞの)の話を真に受けて、勝手に美千花の気持ちを決め付けていたんだ。きみ自身にどうして欲しいかを聞かなくて……本当にごめん」  申し訳なさそうに眉根を寄せた律顕(りつあき)が、 「今朝までの僕は本当に愚かで浅はかな夫だったね」  言って小さく吐息を落とすと、 「僕はね、今日は有給を取って、きみに気付かれないようで待っていたんだ」  美千花にとって、信じられない言葉を口にした。 「え? あの……ここって……もしかして病院?」  恐る恐る問いかけた美千花に、律顕がコクッとうなずいて。 「ここへ来たらまず、一階ロビーの再来受付機に寄るだろう?」  確かにこの総合病院は、ロビー片隅にある再来受付機に診察券を挿入して、その日の「診察案内」と「受付整理番号」の発行をしてもらってからでないと、各外来には行けないシステムだ。  患者はその案内を見て、目当ての科へ行く前に検査センターで血液検査や尿検査等を済ませておかなければならないのか、それともそのまま診察を受ける科へ直行すればいいのかを判断する。  加えて、この病院では受付から会計に至るまで、名前の代わりに当日発行された整理番号で呼ばれるから。  そこを通ることは、避けては通れないのだ。
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