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「ちゃんとわかっているから大丈夫だよ。私だってあの病気に感染したくないからね」
理沙は、母を安心させようと笑った。母は、理沙の言葉を聞いて安心したのか、
「帰って来たら、教えてね」
と言うと、インターフォンのスイッチを切った。
理沙は、母の顔が消えるとホッとしたが、すぐに、誰もいないリビングルームの、ひっそりとした静けさに包まれると、どことなく不安な思いを感じ、視線を落とした。
昼下がりのこの時間帯は、ウイルスが流行る前であっても、リビングは今日と同じように、しんと静まり返っていた。なぜなら、両親ともに仕事に出ていて、理沙が学校から帰って来ても、誰もいなかったからだ。でも、今は、その頃より、この静けさが、ずっと身に沁みて寂しく感じていた。なぜなら、その時は、皆、出かけていて静かだったわけだが、今は、この家のどこかにいるのだから。
父も母も兄も、在宅しているにも関わらず、リビングは、しんと静まり返っている。皆、それぞれの部屋に閉じこもったまま、出て来ないのだ。出てくるのは食事の時ぐらいだろう。そう思うと理沙は、大きな窓が設けられていて明るいはずのリビングが、やけに、薄暗く感じた。
こんな時、なぜだか理沙は、ロックダウンがあったあの時から、自分が、ずっと、眠りに落ちていて、夢を見ているような気分になるのだ。夢ならば醒めて欲しい。理沙は、何度もそう思ったが、夢から醒めることなどなかった。そう、これは間違いなく、今の理沙の日常だったからだ。
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