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理沙は、友達の家も、近所の家も、皆、同じような物であることは、学校での友達との会話や、マスメディアを通して知っていた。だから、この感覚を「悲しい」と思ったり、「寂しい」と思ったりするのは、適応能力の無い人間がすることで、理沙は、今の世の中にネガティブな感情を持つことは、自分が、生存競争に負けたような気がして嫌だった。
この社会に不満を持つ人の声は、理沙にも入ってきたが、自分はそうはなりたくはないと思っていた。だから、理沙は、自分の心の中の、「何かがおかしい」と思う感情から、いつも目を逸らしていた。
理沙は、玄関に付いている衛生室の中に入ると、そこに掛けてある防護服を手に取った。今、着ている服の上に防護服を着るとジッパーを上げる。それから理沙は、ヘルメットを被って、頭の上にあったシールドをしっかりと下ろした。
理沙は、まるで宇宙空間に出る宇宙飛行士のような格好で、玄関のドアを開けた。そこには、ちょうど、雪国にある風除室のような、小さな除菌室が設置してあり、理沙は、その中に入った。
除菌室には殺菌シャワーが付いている。理沙は、出かける時と帰って来た時、必ず、その殺菌シャワーを浴びるのだ。除菌室は、結構、値が張るが、こんな世の中になって、皆、付いていない建物には行きたがらない為、大抵の家や建物には、除菌室が付いている。理沙は、除菌室で十秒ほど立ち止まり、殺菌シャワーを浴びた。これで、やっと屋外に出られる。
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