理沙

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 小学生の頃、理沙はよく、友達とここで遊んだ。今は、時々、散歩している人を見かけるぐらいで、球技をしたり、鬼ごっこをしたりして、誰かが遊んでいる姿を見ることは無くなった。理沙は、誰一人遊んでいない、だだっ広い公園を左手に見ながら、ヴァイオリン教室への道を急いだ。  公園は緑の木々に囲まれていて、花壇には、色とりどりの花々が綺麗に植えられている。この公園は、いつ見ても、きちんと手入れされていてとても美しい。こんな素敵な公園があるのに、誰もいないなんて、何の為にこんなに美しく整備しているのかわからない。理沙は公園を見る度に、いつでもそう思うのだ。  公園の中央には大きな時計が設置されている。そこに差し掛かった時、理沙は、チラッと時計を見た。ウイルスが発生して以来、理沙のような未成年にとって、約束の時間は、以前にも増して重要事項になった。約束の時間に遅れると、大人たちが大騒ぎになる。先生が自宅に電話をするからだ。  もう高校生なのに、遅刻で大騒ぎになるなんて、大げさだと思うかもしれないけれど、近頃では、たった五分、遅れても、警察沙汰になってしまうご時世だ。なぜなら、このウイルスに感染して、道端で倒れてしまう人も少なからずいると噂されているからだ。皆、自分の家族が外出する時は、目的地に、無事に着いたかどうかを確認するようになった。理沙は、いつも、警察沙汰になることだけは勘弁して欲しいと思っていた。
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