理沙

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 「ああ、面倒くさい」  理沙は、ヘルメットの中でそう呟いた。  ヴァイオリン教室は、この街の高級住宅街と言われているエリアの外れにあった。自転車を漕ぎ続けていると、そのうち、見えている街並みが、明らかに変わる地点にやって来る。理沙は、素敵な佇まいの大きな家を横目に、教室の前で自転車を下りると、自転車を自転車置き場に止め、教室の玄関に設置されている除菌室で、例のごとく十秒、殺菌シャワーを浴びた。それがすむと、インターフォンに向かって、名前と会員番号を告げる。すると、目の前の扉が自動的に開き、理沙を内部に通してくれるのだ。  例のウイルスのせいで、どこに行っても扉は非接触型になっていて、ドアやドアノブに触らなくても、その前に立てば自動的に開く。たまに、自分で操作しなくてはならないようなドアもあるが、大抵、レバーは足で操作できるようになっていた。教室の中は、もちろん空気清浄機が回っていて、強制換気されている。この建物の中には、八室のレッスンルームがあり、理沙は、ドアに「3」と書かれたレッスンルームに入った。
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