レッスン

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五. レッスン 「こんにちは。石田理沙(いしだりさ)です」  理沙が挨拶をすると、ガラス張りの仕切りの向こうで、先生がニッコリと笑った。   消毒液の匂いがするこのレッスンルームは、先生と生徒の間にガラスの仕切りが張られている。だから、当然、先生が、生徒の手を取ったり、お互いに触れ合ったりするようなことはない。声や音は聞こえないわけではないが、音は全て、マイクを通すようになっている。それじゃあ、通う必要もないんじゃないかと思うかもしれないが、臨場感が全く違うのだ。側に人がいる気配、全身をこの目で、一目で捕えられる感覚。それは、VRやインターネットレッスンとは、全く異なっていた。  厳密に言えば、直接、音を聞いてレッスンする方がいいに決まっているが、このご時世、そんなリスクを毎週、侵すような人は、よっぽど、プロフェッショナルを目指しているか、コンクールを前にしているか、余程の理由がなければそんなことはしなかった。  バレエの教室だって、今は、個人レッスンが主流で、ガラス越しだ。しかし、ネットでレッスンをするよりは、音は格段にいいし、感じ取れる物も違う。先生も、インターネットで教えるより、この方が教えやすいと言っている。だから、このようなガラス越しのレッスンはとても人気があるのだ。  
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