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当然、スペースも設備もいるのでレッスン料は高い。そして、やはり、このレッスン料が払えない家庭は、こう言うレッスン形態は選べず、インターネットでしか学べないということになる。
このレッスンルームの中では、防護服を脱ぐことができる。ヘルメット越しにも消毒液の匂いがするのだから、余程、衛生には気を付けているのだ。しかし、身体の線を見なければならないバレエやダンスのレッスンとは違い、楽器のレッスンの際は、感染への恐れから、防護服もヘルメットも付けたままの生徒も多い。
理沙の場合は、ヴァイオリンなので、顎にヴァイオリンを挟む必要がある。その為、理沙のヘルメットはヴァイオリンのような楽器を弾く人用に作られていて、顎の部分が小さく、柔らかくできていた。
「あら、理沙ちゃん、こんにちは」
先生が、ガラスの向こうから話しかけてきた。スピーカーから先生の声がする。こんな風に、ガラス越しに授業を受けられたとしても、本当の音は聞こえない。理沙は、ここに来るといつも思い出す場面がある。
昔、小学校の頃、近所のヴァイオリン教室に通っていたが、その先生が、いつも理沙にこう言っていたのだ。
「理沙ちゃん、本物の音をたくさん聞かなきゃ駄目だよ。生の演奏から学べることは多いよ」
と。
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