16人が本棚に入れています
本棚に追加
その先生は、街の小さなオーケストラのヴァイオリニストだった。しかし、ウイルスが発生して、まだ、間もない時、ウイルスに感染して死んでしまった。それで、お母さんが、ガラス越しで勉強できるこの教室に理沙を送り込んだのだ。でも、本当のことを言うと、ガラス越しには、先生の動きはわかっても、本当の音はわからない。
理沙は、バッグから楽譜を取り出し、譜面台に置いた。そして、楽器を持つと、一つ、大きく息を吐き、次に、息を「フッ」と吸い込むと同時に、ヴァイオリンを弾き始めた。
レッスンが終わると、先生が、
「理沙ちゃん、上達したわね」
と言ってくれた。その言葉を聞いて、理沙は、素直にうれしいと思った。理沙は、特にヴァイオリニストを目指しているわけではなかったが、ヴァイオリンの音がとても好きで、きっと、自分は、一生、ヴァイオリンを弾き続けるのだろうと思っていた。
「もう少し、上達したら、もっといい先生を紹介できるわ」
先生がそう言ったので、
「いい先生って?」
理沙がガラス越しに、尋ねると、
「街のホールで音楽教室をやっているのを知っている?」
先生が、楽譜を片付けながら、理沙に視線を送る。
「はい」
「そこで、ナショナルオーケストラのコンサートマスターが、月に一回だけ、教室を開いているそうよ。そこを紹介するわ」
「へえ、いいんですか。そんなすごい先生に見てもらえるなんて、私、すごく、うれしいです」
理沙は顔をほころばせて、そう言ったが、一瞬、考えると、
「先生、でも、それって高いんですよね」
と尋ねてみた。
最初のコメントを投稿しよう!