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最初は一ヶ月ほどの待機の後、都市封鎖は解かれ、再び、今まで通りの日常生活に戻っていたが、また、三ヶ月程経つと感染者数が増え、再び自宅待機となった。
そう言う引き締めと緩和が、交互に、何ヶ月間か続いた後、突然、一年程のロックダウンが行われ、その後、この世界は完全に変わってしまった。皆が、部屋に籠っている間、世界の仕組みが変わっていたのだ。まるで、浦島太郎が竜宮城から帰って来たら、世界が変わっていたかのように。
理沙(りさ)が、「浦島太郎のようだ」と、昔話に例えたくなるのには理由があった。それは、この国で行われたロックダウンが、他国と比べて、とても緩い物だったからだ。浦島太郎は竜宮城で楽しい時間を過ごした。そう思えるほど、日本のロックダウンは緩く、意外に楽しい物だった。ただ、できるだけ家にいるように言われるだけで、食料品の買い出しや散歩、また、軽い運動の為の外出は許されていたのだ。だから、ナチスドイツから身を隠していたアンネ・フランクとは、比べ物にならないほど自由で、それはまるで、働き詰めで走り続けていた人々の為の、少し長いヴァカンスのような感じだったのだ。
自粛期間の間、母親は子とゆっくりと向き合う時間が持て、父親は自分の家族に戻った。皆、本当にやりたかったことに目覚め、自分たちに与えられた時間を好きなことに費やした。確かに、その時間はウイルスとの戦争で、テレビを付ければ、患者は何人だとか、死者は何人だとかと、暗いニュースに包まれてはいたが、その時間を完全に否定するほど、悪い時間ではなかったのだ。しかし、一年後、全ての歯車が再び動き出した時、私たちは、この世界が以前とは全く変わってしまっていたことに気が付いた。
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