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いや、お金なんか無くても、創造性がある特定の子供たちは、理解の無い教師の弊害を受けず、伸び伸びと成長して行くことはあった。それは、道端の名も無い雑草が伸びるような感覚だ。そして、たまには、とんでもなく成功する子も確かに存在はしたが、お金があれば、安全な場所で、安全なサービスを受けられるのだからそれに越したことはなかった。このことは、今の世界の事実であり、大抵の普通の人たちは、この貧富の差を越えては行けなかった。
私たちが、家に籠っていた、あの二年間で、多くの人が死んだ。今では、もう、あれほどの人は死なないけれど、テレビでは、毎日、あのウイルスが原因で、「何人、死んだ」とか、感染者が出て、「店が閉められた」と言うニュースが、ひっきりなしに流れている。だから、人々は『NWR』に敏感になった。そして、サービスを売る側も、人々の求める安全性を提供できないとなると、次々と、淘汰されて行った。
「そうねえ。うちの家族なんか、もう、自分の部屋に閉じ籠ったっきり出てきやしないのよ。食事の時ぐらいかしら、ダイニングに、みんなが集まるの」
さっきから、桜色のマニキュアを指に塗っている理沙は、そう言ってから、タブレットにチラッと目を遣った。タブレットの中には、友達の真由(まゆ)と 茜(あかね)の顔が写っている。
「あら、理沙んちは、まだいいじゃない。うちなんか、一切、顔を合わさないわ。全員、モニター越しよ。これって家族って言うのかな」
真由がタブレットの中で口を尖らせている。
「せめて一緒に食事ぐらいはしないとね。でも、うちの兄も、機嫌の悪い時は、家族も信用できないと言って、自分の部屋で食事をするわ。兄の席にはモニターがあって、食べている兄の姿が映し出されるの」
理沙がそう言うと、後の二人が呆れたように笑い声をあげた。理沙は最後の指に、マニキュアを塗り終わると、持っていた刷毛をマニキュアの瓶に戻した。
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