これはもう捨てよう

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これはもう捨てよう

 模造の星  何もかもがうまくいかない。そんな不満に痺れを切らして、俺は地球を飛び出した。  こんなはずじゃなかった。何度もそう思い、何度も修正しようと試行錯誤し手を打ったが、どれも悪手としてしか働かなかった。  奴らがいなければ。奴らでさえなければ。  呪詛のように呟き、適当に引っ掴んだ惑星に細工をすることにする。  地球から持ってきた土を捏ね、植物を根付かせる。海水を配置し、卵を置いて、宇宙に投げ捨てた。  その様子をホログラムで眺め見る。  毎日気まぐれに様子を眺め、雨を降らせた。太陽に似た星も近くに配置した。  卵が孵るかどうかは、誰にもわからない。  置いた俺自身にでさえ。  孵るか、孵らないか、それを思案するのも見守るのも、やがて飽いた。  植物は育ち、海水も蒸発することなく海となった。 降らせた雨は川となり、地球に似た星を作ることに成功したとほくそ笑んだ。  植物以外の生き物は存在しないが、もうこれでいいかと満足し始めた頃、卵が還った。  新たな生き物の誕生が成り、喜んだ。  卵から孵ったそれは、海を泳ぎ空を飛び、陸を歩いた。  餌は植物から生った実を食べる。  ひとりでは哀れだと、もうひとつ卵を造り、そいつに手渡した。大事に育てろと言って。  放っておいても孵るだろうと思ったが、そいつはきちんと見守り甲斐甲斐しく温めた。  それは思いがけず早くに孵り、生き物は二匹になった。  これで寂しくないだろう。  植物の種類を増やし、景観を整え、雨を降らせる。  今度の箱庭はうまくいく。  そう思った頃、一隻の宇宙船が星に近付いていた。  気付くのが遅れて、その宇宙船は星に下り立ってしまう。  船から降りてきたのは地球の人類だった。  いつ見つけたのか、いつ見つかってしまったのか。  目敏い奴らだ。  そいつらはこの星に根を下ろす準備を始めてしまった。  本当に忌々しい。  星の生き物は二匹から子供を増やしていたが、まだ数は大したことがない。  星を別の場所に移そう。  そう決めて、まずは準備のために送られたと思われる人類を排除した。  奴らの持つ資源は使えるかもしれない。そう思ったのが、間違いだった。  俺の星を別の銀河団に移す。これで、地球から見つかることはないだろう。  そうして、しばし穏やかな時が流れた。  生き物は数を増やし、子孫が増えていく。  その時、生き物たちの中に異変を感じた。  変種、というべきか。  姿の似通った別の生き物が生まれるようになった。  近親交配の結果だろうかと納得しながら、様子を見守る。  その頃、海や植物にも変化が見られるようになった。  地球からの異分子が、作用したのだろう。  見知らぬ植物が生え、根を張り始めた。  海では今まで見なかった小さな生き物が生まれていた。  やがてそれは、どんどんと増えた。  増えて、増え続けて、みるみるうちに海を支配してしまった。  そして、最初の生き物たちにもさらなる変化が見られるようになった。  変異体と元の種族が分かれて暮らすようになり、それらは複数に分かれて群れを作り始める。  群れは争いを繰り返し、海の生き物たちとも住処や餌を争った。  海の生き物は、最初の生き物たちに大きさと強さでは叶わなかったが、数で勝った。  海の生き物たちは、増えるため、そしてまたその量故に餌となる植物をどんどん喰らい、減らす。  そうこうしている間に、海の生き物がどこから生まれたのかを突き止めた。以前人間たちが乗ってきた宇宙船、あるいは人間たちの所持していた何かに付着していたもののようだ。  それがかつての地球の土や海水で作ったこの星のものと適合し、進化したらしい。  本当に忌々しい。そして己の愚かさに心底うんざりする。  最初から間違いだったのだ。  土も、海水も、場所も。……いや、判断そのものが。  星は諍いによって荒れ、当初期待していたものとは違う方向へと進み出した。  軌道修正を行おうという意志すら、感じさせないそど、星への興味が失せてしまった。 「もういいか」  俺はホログラムを切り、星を銀河の彼方に投げ捨てる。  手放した瞬間から、もうそれは自分の星とは思えなかった。  そしてまた、次の準備を始めることにする。 「次は全部、最初から造ろう」  
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