プロローグ

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 よく名前を耳にする多店舗展開の大手不動産会社ではなく、地域密着型の会社だからなのだろう。店内は緑と木を基調としており、あたたかな雰囲気だ。  四人掛けのテーブルが程よい間隔を開けて三つある。壁側には絵本や玩具が準備されたキッズスペースがあり、奥には個室もあるようだ。  内装からしてお客への気遣いが感じられる。  人のよさそうな恵比須顔の安在さんの穏やかで優しそうな印象とあいまって、師田は安在不動産に好感を持った。 「どうぞお掛けになってください」  入口から向かって一番奥の席へと案内される。師田と安在が座ったタイミグを見計らって、おしぼりとコーヒーが出された。  おしぼりを手に取る。掌に感じる温かさが心地いい。ただ、エアコンが効きすぎているのか、すぐに冷たくなる。それが妙に寂しく感じたのは、一人暮らしが長いせいか、人の温もりに飢えているからなのかもしれない。  師田はそんなセンチメンタルなことを思う自分に自嘲した。気持ちを切り替え、安在との打ち合わせに集中することにする。  安在がさりげなく話題をふってくれるお陰で、世間話や仕事の話など会話が弾む。コーヒーを飲み、和やかな空気になったところで安在に本題を切り出される。 「早速ですが、竹輪さんのお話しですと、三ヶ月後には師田さんは豊橋に引っ越しされるということでお間違いないですか?」 「はい。車は所有していないので、できれば通勤に便利な場所が希望です。住宅補助も出るんですが、なんせ一万七千円しか出ないので……」  社宅や寮であれば、光熱費以外が会社もちだ。急な引っ越しに家賃となると、まだ二十代の師田としてはなるべく出費を抑えたい。そのことを伝える前に、安在が被せ気味で口を開く。
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