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「家賃は四万円以内がご希望とお聞きしております。ちなみに交通費は?」
「住宅補助とは別に出ます」
「でしたら市電で通える範囲でしたら大丈夫そうですね」
「しでん?」
師田と同じ名称だが、微妙に発音が違う。聞きなれない単語なので、師田は疑問系で復唱した。安在がハッとしたような顔をする。
「すみません。路面電車のことです」
慌てて言い直す安在に、師田は「ああ」と納得する。
「勤務先は曲尺手町にあるオフィスの方なので大丈夫です」
「それでしたら、いくつかご紹介できる物件がございますよ!」
そこで安在が嬉々とした顔をして両手を叩いた。テーブルの上に置かれたファイルをめくる。そこからいくつか資料をピックアップして机の上に広げた。
「すぐに内覧できる物件が六つほどありますが、どうされますか?」
東京には明後日の夜までに戻ればいい。六件すべて内覧してから決めることも可能だ。
師田が安在にその意志を告げる。安在がにっこりと笑う。
「そうですね。それがよろしいかと思います」
その場で安在がすぐさま効率のいい物件巡りの計画をたててくれる。お陰で今日明日中に全ての物件を内覧できそうだ。
内覧する順序が決まったところで、安在が手際よく準備をする。
ほどなくして師田は安在と共に店舗を出た。
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