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小学6年生の僕のとりえは一つだけ。それは、背が高いということだ。別に、それはすごいことではないし、それだけじゃ自慢にもならない。と、自分では思っている。背が高いだけで運動神経がずば抜けていいわけじゃないし、かと言って勉強ができるわけでもない。
これはある日の出来事だった。
僕が学校の図書室に行くと、低学年らしき背の
低い男の子がいた。その子は棚の一番上の本に手を伸ばしていた。あと少しというところで届かない。
周りを見ても全く人がいない。いるのは男の子と僕だけだ。つまり、手伝うことができるのは僕だけだということになる。
そこで僕は迷った。
手伝ってあげようか、そのまま通り過ぎるか。
その棚は僕であれば簡単に届く高さだった。
でも、
僕だって急いでるわけだし、もうすぐ授業始まるからはやく本借りなきゃだし。
まあいっか。
その時、
「どさどさどさ」
と、嫌な音がした。男の子に数冊の本が落ちてきた音だ。
「うわーん。」
男の子は泣き出してしまった。
「どうしたの!?」
泣き声を聞いて、さっきまで誰もいなかったのに、人が集まってきた。中には、同じクラスの人もいた。
「本を取ろうとしてたら、たくさん落ちてきちゃったの。」
男の子は泣きながらそう言った。
「それなら、近くにいる人に、取ってくださいって言えばよかったのに。」
僕と同じ学年の子が、そう言って慰めた。
男の子は、僕を指差して言った。
「だって、たのもうと思ってたけど、だめかなと思って、出来なかったもん。あのお兄ちゃんしか、いなかったし。」
男の子がそう言った瞬間、僕に一斉に矢のような刺す視線が飛んできた。
「あんな小さい子を手伝ってあげないなんて
ひどすぎ。」
「見損なったよ。」
僕は図書室の隅で小さくなっているしかなかった。そして、図書室を出て行く男の子を見てふと思った。
あの男の子を手伝ってあげることは、背の高い僕にしかできないことだったのかもしれない、
と。
そしてもう一つ考えた。背が高いこと、もう少し自慢に思ってもいいのかもしれない、と。
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