元ヤンの小話

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 4月27日の夜、自分の部屋にいた私は、勉強机に座り、パソコンの画面を眺めていた。  私が通う皐月高校では、多くの部活が宣伝や活動報告などを動画にして、全世界に投稿していた。動画投稿があまり盛んではなかった2013年にとって、彼らは、珍しかった。  昨日、帰りのホームルームが終わり、一人寂しく廊下を歩いていると、部の掲示板に貼られた一枚のポスターに目が入った。  「落語研究部 春の生落語会」三連休の初日から、予測不能なお笑いをお届けします。  【プログラム】  ・午後九時より オープニング  ・午後九時半より 「化け物使い」菅原家道平  ・午後十時半より 「題名未定」皐月亭紅葉  ・午後十一時より フィナーレ    落語会は、動画で生配信するそうだ。なんだか、面白そうなので、見ることにした。  当日の夜、夕食を食べながら観ていた番組に気をとられ、落語会のことをすっかり忘れていた。入浴を済ませ、ソファでくつろぎながら、テレビを見ていると、菅原道長の紹介が流れた。その瞬間、はっと落語会のことを思い出した。  時計は、すでに十時を回っていた。動画を見始めた時には、座布団に座る着物を着た人が「お暇をください。」と悲しそうに言い、頭を下げた。  下のみんなからのコメント欄に、「(笑)」や「面白かった」という声が届くが、この一言だけを聞いた私にとっては、何が面白いのか理解が出来なかった。  予定よりも早く、次のプログラムへ移った。「化け物使い」と「菅原家道平」という縦に二つ書かれた紙がめくられ、「自慢話」と「皐月亭紅葉」と書かれた紙が姿を見せた。  ラジカセで流れているようなエコーの効いた三味線の音とともに、「皐月亭紅葉」という和服の男が現れた。眼鏡とオールバックの髪型をしていて、イカつい雰囲気が残る。彼は、座布団に座ってお辞儀をし、噺を始めた。 🙇‍♂️  自慢というのは、誰しもしたくなるものでございます。例えば、学校から帰ってきた子供がよく親に言いますよね。  「母ちゃん、父ちゃん、おいら、友達百人できたよ!」  「あら、たけし、一日でそんなにできたのかい。すごいね~。」  「そうだな。今度、うちに連れて行きなさい。」  「馬鹿だね、あんた。友達百人も入らないに決まってるだろう。」  すると、子供に聞こえないように。  「お前、知らないのか。たけしはな、拾った虫を友達にしてるんだよ。」  (頭を下げる。)  これで終わりではありません。何せ、まだ見習いなもので、ちと練習をさせていただきました。こういう子供もいますけど、自慢というのは、だいたい嬉しかったり、楽しかったことが多いですよね。ところが、中には、不幸話をする人もいるとか。  今宵、お話しするのは、私自身の自慢話の集大成、眠らないように聞いてください。  始まりは、私が中学生の頃、私、学校は電車で通ってたんです。珍しいでしょ? 中学生が電車で通学。普通、高校からですものね。まぁ、たまに小学生が乗ってることもありますけど。  でっていうと、いつも自宅の最寄りから何駅だったかな。まぁとやかく、立川だったかな。そこから、学校まで歩くわけです。  どうして、そこまで行くんだって? お前、もっと近くに学校あるだろ。  えぇ、そこら辺にありましたよ。今の高校も、自宅から徒歩十分ちょいですからね。でも、話せば長くなります。一言で言うなら、「親に言われたから」です。  あーあ、学校選ぶ前から、反抗しとけば良かったよ。この学校での思い出は、ホントにクソでした。犬も食わぬ、ハエも寄らぬぐらいね。  まず、学生たちは、教師の前では、兵隊なんですね。真面目ですし、手を挙げるのも静かでね。いやー、手なずけられた犬みたいです。でもね、教師がいない場になると、やつらは変わるわけですよ。  人を蔑んだことを言って、自分が偉いと言い張るやつとか、会話の中で自分ばかり話して、他のやつを置いていくやつとか。  特に、私が最も腹立たしく思えたのは、あいつだな。  これは、同級生にしか察しがつかないので、バラしちゃいます。  Тから始まる人なんですが。というと、みんな調べたくなると思うけど、やめたほうがいいですよ。お金貰えるとか、自分に得なんかしないんだから。  さて、クラスで孤立した私は、勇気を持って一人に話しかけたんですよ。それで、会話も盛り上がって、仲良くなってきた! という時にだよ!  「奇遇だね。僕もそれ、好きなんだよ。」  割り込んできたそいつは、わざと私に肩をぶつけて、どかしました。  頑張って、私もそいつに会話を合わせようとしました。が・・・。  そいつは、私の声も無視して、二人だけの世界に入ってしまいました。  これ以外にも、あいつは、陰で私の悪口を言ったり、小馬鹿にもしてきました。
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