元ヤンの小話

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 何がしたいんですかね。よく、いじめる加害者って、「家庭で不満があるから、誰かに当たってしまう。」だのと、根っからは悪くないと、肯定したような理由をよく聞きます。  でも、してしまったことは、変わりありませんよね。復讐でもそう。世間が悪と呼ぶ行いは、冤罪でない限り、理由は関係ありません。だから、大人しく認めて、反省しろって話ですよ。卒業しても、あいつらは、認めなかったけどね。  そして、私は、学校という環境が嫌になり、ついには、成績までも悪化した。  「なんで、わざわざこんな遠くまで行ってんだろう。」  毎日がつまらない。気づけば、下を向きながら、帰りの駅の階段を降りていた。いや、ダメだ!ダメだ! 前を向け! そう言い聞かせて、歩いていると、ホームで電車を待っていた人と目が合いました。  軽蔑しているような冷たい目でした。私は、急に怒りが込み上げてきました。  なんで、そんな目で見られなきゃいけない。悪いこともしてねえのに。  学校では馬鹿にされ、帰りの駅では冷たい視線を浴び、家では名門校へ行けと厳しい目を向けられる。  どこへ行っても、肩身の狭い思いをする。人間って、辛い。やめようかな。と思い浮かんだのは、クスリ。でも、クスリなんてしても、人間自体は、やめられません。ただ頭が馬鹿になるだけ。  じゃあ、いっそのこと死のうかな。まるで、『死神』と出会う医者のようなセリフを捨て、中学二年生の私は、不登校のまま、死に場所を探して徘徊する日々を続けました。  しかし、その日々から突然、新たな物語を切り開くことになるのです。  第二章! 「不良時代編」。  廃人のように道をさ迷っていた私ですが、ある時、ガラの悪い学生たちに絡まれた。  「おい、テメェ、すいません?」  素直に謝っとけばいいのに、この時の私は違いました。  「すいません? お前らと殴り合って、勝ったら謝ってやるよ。」  それを聞いた学生たちは、やる気満々。ブンブンブンと、硬そうな拳を回します。  「行くぞ、コラーっ!」  ホントは、そのまま袋叩きにされて、死のうと思いました。でも、死ぬ前に体感したかったのかな。不良との殴り合いなんて、ドラマでしか見たことないから、つい手が出てしまった。  しかも、クリーンヒット! 自分が振るったパンチやキックが当たる当たる。この快感やめられない! と思った時には、彼らは、ボロボロに倒れていました。  翌朝、彼らは、私の手下になりました。  あの時の快感が忘れられなくて、いろんな学校のやつらと毎日やり合いました。  うちのほうの不良って、弱いんですかね。たったの一週間で、何かの組の総長になりました。  刺客? そりゃあ来ましたよ。次期総長を狙って、やって来るんですが、敗北は、一桁しかない。まぁ、負けても、またぶっ飛ばして取り返しましたけどね。  えっ、怖い? やめてくださいよ。今は、してませんから。総長も信頼してるやつに譲って。  まぁ、不良をやめた原因がね、恥ずかしながら、幼馴染の言葉でした。  駅前で会ったんです。ポケティを渡されました。ティッシュのカバーには、非行防止運動と書かれていました。私は、言いました。  「お前、よくこんなやつに、これを渡したな。」  すると、彼女が。  「ふーん、非行してるのは、認めるんだ。」  ・・・歯に衣着せぬことを言うやつでございます。幼い時から、ホントに憎たらしくて、よくケンカばっかしました。  この時、珍しくあいつから、夕方に駅前の公園で待っててほしいと言われたんです。  公園に行くと、ベンチに座っていた彼女が言いました。  「あんた、変わったね。」  「あ、あぁ、そりゃあな。いいだろ。自由で、楽しそうで。」  「そうね。自己中心的で。」  「自己中? 待ってくれよ。誰かのために役立ってるじゃねえか。天下とって、平和好きなヤンキーを増やしていく。ゴミ拾いだって、する予定だ。それなのに、自己中はないだろ。」  「じゃあ、お母さんお父さんに、本当の気持ちを話した?」  「本当の気持ち? 当然だ。この姿、日常こそが本当の俺を表してるつもりだ。」  「ホントにバカね! 入学する前、私に言ったじゃない。あなたのお父さん、大企業の社長に抜擢されて、天狗になったから、『俺みたいになれ』って、今の中学校に入るように勧められたって。ホントは、私と同じ近くの中学校にしたかったって。そういう正直な気持ちを話せって、言ってるの!」  「・・・。」  何も言い返せませんでした。仰る通りですからね。ただ、下を向くだけ。  彼女は、背を向けて、大きく深呼吸をした後、私に優しい一言を言いました。  「いろんなことに整理がついたら、また戻ってきてよ。いつもの紅木で。」
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