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20.彼女の家のお風呂で……
「マサくん、お湯加減は大丈夫?」
「だ、だいじょぶー……」
どうしてこうなった?
雨の日の放課後。千夏ちゃんと相合傘をして帰った。
その途中でトラックのタイヤが水しぶきをはね上げた。びしょ濡れになった俺。見かねた千夏ちゃんが自宅へと誘い、現在俺は千夏ちゃんの家の風呂に入っている。
「こんなハレンチな状況ある!?」
「どうしたのマサくん? 何か不都合でもあったの?」
「い、いや大丈夫っ。だから絶対に開けないでね!」
彼女の家の風呂場で全裸の俺。すぐそこの脱衣所には千夏ちゃんがいた。振り返ってみてもハレンチにもほどがある。
「私リビングで待っているから。マサくんはゆっくり温まってね」
そう言って千夏ちゃんの足音が遠ざかっていった。
一人になったのでこれまでの流れを整理する。肩まで湯船に浸かるのを忘れない。
「はぁ~」
体が温まってくる。リラックスしてくると、千夏ちゃんの家に到着してからのことを思い出してきた。
そうだ。千夏ちゃんの家に着いたら両親は不在で……。焦る俺とは反対に、千夏ちゃんは迷わず俺を風呂場に案内したのだった。
「洗濯するから脱いで」と、俺は脱がされ、やっぱり今に至る。
「いや! 脱いだのは自分でだしっ。千夏ちゃんは俺が脱ぐとこ見てないし!」
声が浴室に反響して、何も口に出すことじゃなかっただろうと恥ずかしくなった。
テンパってるな俺……。初めての彼女の家ってだけでも緊張するのに、風呂に入ってる状況とか本当に戸惑う。
浴室に入った時から、もう風呂は沸かされていた。たぶん千夏ちゃんのお母さんが雨で濡れてしまうであろう娘のために沸かしていたのだろうと思う。
本当だったら帰ってすぐに千夏ちゃんが入るはずだったお風呂。いや、そうじゃなくても毎日彼女が使っている風呂だ。
毎日あんなところやこんなところを洗ったりして……。湯船に浸かりながらリラックスをして、まったりしながら俺のことを考えてくれちゃったりなんかして……。
やべぇ、ここにいると千夏ちゃんのお風呂シーンを想像してしまう……。
「……出るか」
のぼせる前に風呂から上がって着替える。着替えは千夏ちゃんのお父さんのものらしい。なんだか変に緊張する。
「マサくん、しっかり温まった? はい、これ生姜湯」
リビングに行くと千夏ちゃんが優しく世話を焼いてくれた。
ほかほかの生姜湯を受け取る。ちょうど入れたてで熱そうな湯気が立っていた。
「少し冷ました方が飲みやすいと思って早めに入れたつもりだったんだけれど、タイミング遅かったみたいね」
「別に俺猫舌じゃないから平気だよ。そう考えるってことは、千夏ちゃんが猫舌だったり?」
「あ、熱いと火傷するかもしれないじゃないっ」
「そだねー」
千夏ちゃんの可愛い気遣いに心も体も温まる。
生姜湯を飲み終えると、千夏ちゃんが爆弾発言をした。
「制服が乾燥するまで時間かかるから、それまで私の部屋で待っていましょうか」
「えっ!?」
何気ないような千夏ちゃんのお誘いに驚かずにいられるだろうか。いや無理!
「千夏ちゃんのへ、部屋に行っても、いいのかな?」
「だってここにいても暇でしょう?」
いやいや、暇とかそういう問題じゃなくてね……。
男を部屋に入れることに抵抗感はないのか。きっちり問いただしたいところだけど、俺は何も言わなかった。
「そう……だね……」
むしろ好都合。こんなに早く千夏ちゃんの部屋に入れるだなんて想定していなかったものだけど、嬉しい誤算ってやつだ。
雨という天気が俺に幸せを運んでくれた。嫌いな梅雨が、この時ばかりは好きになった。
たまには思いっきり濡れるのも悪くない。自室へと案内する千夏ちゃんの後を追いかけながら、俺はよからぬ期待を膨らませてしまうのだった。
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