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4.告白の結末
あなたのことが好きです。
この告白にどれほどの威力があるのか、一度も告られたことのない俺にはわからない。
だけど、たった今わかったこともある。この一言を口にするのは、想像以上に勇気のいることだった。
「……はえ? え? ええっ!?」
勇気を振り絞った俺の告白に、千夏ちゃんはすっとんきょうな声を上げた。
「俺は千夏ちゃんのことが好きだから。だから優しくしたいって思うんだよ」というのが先ほど俺がした告白である。
冷静に振り返ると、キメ顔でこんなこと言ったのかよ! と、床をバンバン叩きたい衝動に襲われる。脳内バンバンだけで顔が熱くなって汗までかいてきた。
でも、ちゃんと「好き」だと言っている。勘違いされる、というオチにはならないはずだ。
「……」
黙って彼女を見つめる。真剣さが伝わったのか、千夏ちゃんはぐっと言葉を詰まらせる。
「そ、そんなこと急に言われても困るわよ……」
ごもっともである。
傷心につけこんで一気にアプローチしようとは思っていたけど、流れでついぽろっと告白してしまった。
予想外だろうが、ここが攻め時だ。むしろ不意打ちの方が千夏ちゃんもついぽろっとオーケーしてくれるかもしれないし。
「驚かせてごめん。本当はずっと前から好きでした。千夏ちゃんが大迫のことが好きで、あいつのことで今考えられないってのはわかってる。それでも、俺のことも考えてくれたら嬉しい……です」
本当は「俺が忘れさせてやんよ!」くらいのことは言ってやるつもりだったのに……。
ああ、一番大事なところでひよっちまった……。肝心なところで男らしくなれない自分が恨めしい。
そんな弱気のせいだろうか。
「佐野くんはずっと友達だと思って……だから、私……っ」
突然千夏ちゃんは駆け出した。スタートダッシュが良すぎてあっさり見失ってしまう。
あれ、逃げられた? もしかしなくても逃げられたよなぁ……。
「やらかしちゃったかな……」
この結果には呆然と立ち尽くすしかなかった。
傷ついた彼女を慰める。気を許しきったところでガツンと告白。俺のたくましい姿に惚れてくれるはず。なんて考えていた。
大迫にひどい扱いをされたからこそ、優しい言葉で惹かれてくれると思った。それが甘かったってことか。
「はぁ~……」
どでかいため息が漏れる。
これで千夏ちゃんに「ただの男友達」として見てもらうことはできなくなってしまった。
もう口も利いてもらえなかったらどうしよう……。
「いやいや、友達のままだったら可能性はゼロだったんだ。むしろここからが勝負だろ!」
切り替えていこう。逃げたってことは意識してもらえたってことだ。ポジティブに考えよう。
明日からどうやって千夏ちゃんにアプローチするか。思考を巡らせながら帰路に就いた。
※ ※ ※
走って走って、走り続けた。どの道を走って家に帰ったかは覚えていない。
気づけば千夏は自室のベッドに倒れていた。
いつ帰ってきたのかわからないほど気が動転していた。一向に息は整わないし、胸の鼓動もうるさくてしょうがなかった。おかげで頭の中が整理できずにいる。
「こ、告白、された……? 私が、佐野くんに?」
思い出すだけで顔がかぁっと熱くなる。
千夏は異性から告白をされたことがなかった。
隠し切れない健太郎への好意。それ以上に人に対して素直になれない性格が災いし、今までまともに他人から好意を向けられたことがなかった。
「佐野くん……なんで……」
千夏が素直に話せる人物。その唯一の例外が佐野将隆だった。
思わず他人に対してつっけんどんな態度を取ってしまう。幼馴染の健太郎でさえ素直に接しているとは言い難かった。
そんな自分を相手にして、呆れることもなく嫌ったりもしない。根気強く話を聞いてくれる将隆に、いつしか千夏は自分でも気づかない間に心を開いていた。
「でも、佐野くんを好きとか嫌いとか……考えたこともないよ……」
友達だと思っていた。恋愛相談ができる男友達だ。同性の友人以上になんでも話せたが、それは決して異性に対する好意ではない。
それなのに、まさか告白されるだなんて……。
「明日からどんな顔をすればいいのよ……」
枕に顔を埋める。胸につっかえたものを吐き出すかのように大声を出した。
声は枕によってくぐもった音に変わる。判然としない千夏の心の声そのものだった。
──千夏の思考は将隆に告白された事実でいっぱいになり、この時ばかりは幼馴染から罵倒されたことなどすっかりと忘れていたのであった。
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