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ヒナタは悔しさに唇を噛むが、どう頑張ってもこの首輪は外せそうになかった。
「大丈夫、僕は優しいから酷いようにはしないよ。キミのことは奴隷というより、部下として大事に扱うから」
スライムはヒナタの周りをぐるりと一周すると、満足そうに微笑んでみせた。
「さぁ行こうか」
スライムはそう言うと、ぽいんぽいんと跳ねていく。
「おい、どこに連れて行く気だ?」
「そうだねぇ。とりあえずは安全なところかな」
「安全って?」
「あのね、実は僕」
そこで、スライムはハッと息を飲むような仕草をしてみせた。
一体どうしたのかと思っていたら、すぐ近くの草むらから嫌な気配が近付いて来た。
咄嗟にヒナタが身構えると、頭に角の生えている魔物が二体現れた。そいつらは黒に近い灰色の体をした獣で、大きさは少しでかめの犬くらいだ。
鋭い牙と爪を光らせてこちらを威嚇して来る魔物に、ヒナタは木の剣を構える。こんな物ではろくに太刀打ちできないだろうが、なにもしないよりマシだろう。
けれど魔物達はヒナタではなく、スライムの方を見て目つきを鋭くした。
「おい、こいつ例のスライムじゃないか」
「この緑色の体、間違いない。手配書に乗っていた奴だ」
「は、手配書?」
不穏な物を感じてヒナタが首を傾げる一方、スライムはちょっと動揺していた。
「こいつに掛かった懸賞金は俺らの物だ!」
「我ら魔王軍を裏切った罪、思い知るんだな!」
言うや否や魔物達は襲い掛かって来た。ただ事ではない様子に戸惑っていると、スライムがヒナタの服のフードにぴょこんと飛び込んできた。
「急いで逃げるよ! ほらほら早く!」
言われるまでもなくヒナタはその場から一目散に逃げ始める。
――それからしばらくの間追い掛けっこは続いたが、幸いにもどうにか撒くことに成功した。
「お前なんなの? 同じ魔物同士なら話し合いとかで解決できないわけ?」
息を切らしながら、ヒナタはスライムに文句を言った。
「無理だよ僕の首に懸賞金が掛かっているんだから」
「いやお前首ないけどね。ていうかお前、連中になにしたの?」
「僕は無実だよ。これは罠だ! 僕は部下に裏切られてしまったんだ」
「へー。お前って部下なんている立場だったんだね」
ヒナタは真面目に取り合おうとはしないが、スライムは真剣な様子だ。
「そりゃそうさ、僕は魔物の王様だからね!」
とても偉そうに言われ、ヒナタは怪訝顔になった。
「はあ? 水まんじゅうの癖によく言うよ」
「本当だよ。僕は魔物の中で一番強かったんだ! みんなには魔王様って呼ばれていたんだよ」
この緑色の丸い奴はなにを言っているのだろうと、ヒナタは呆れた顔をした。
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