1 不思議なスライム

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1 不思議なスライム

「こんにちは、僕いいスライムだよ! 一緒に冒険に行きましょう」  ある穏やかな日のことだ。  広い草原の木の下で休憩していた少年ヒナタは、可愛らしい体をぷるぷるさせる緑色の水まんじゅうにしけた顔をした。  そいつの大きさはヒナタの手の平と同じくらい。つぶらな瞳が大変可愛らしいのだが、ヒナタは面倒臭がった。 「あっち行ってな」  ヒナタはシッシッと手を振って追い払おうとするが、スライムはしつこく彼の周りを跳ね回る。 「キミ旅の人でしょ? 僕もお供させてよ。きっと役立ってみせるから」  そんなことを言って聞かないスライムに、ヒナタはますます苛立った。  世の中には「悪いスライムじゃないよ!」と言って命乞いをしてくる奴もいるそうだが、「いいスライムだよ!」とか言う太々しい奴がいるとは思わなんだ。 「悪いけど魔物なんて信用できないね」  うんざりとヒナタは答えた。  彼はあてのない旅をしているごく普通の少年だ。本当はこんな旅したくないが、村に居場所がなくなって逃げるように外の世界へと飛び出したのだ。  確かに一人での旅路は心細い。  かと言って魔物なんて連れて歩く気にはなれなかった。 「やーだ! 一緒に行きたい!」  スライムは地面の上をくるくる回って駄々をこねる。  しばらく押し問答が続いた後、ヒナタの方が折れていた。 「あぁ、もうわかったよ。そこまで言うなら勝手について来な!」  思わずヒナタはでかい声を出してしまう。 「やったー!」  スライムは大喜びでぴょんぴょん跳ねると、ヒナタの腕に飛び込んできた。 「うわっ!」  突然抱きついてきたスライムに驚き、ヒナタは慌てて腕を振り回す。しかし柔らかい感触のせいでうまく振りほどけない。 「えへへーありがとう。キミがそう言ってくれてよかったよ」  スライムは嬉しげにそう言うと、ヒナタの頬っぺたに体をすり寄せた。 「これで契約は成立だ」  いきなり低い声でそう言われ、ヒナタはギョッとした。  目の前にいるのは愛らしい水まんじゅうなのに、なぜか得体の知れない恐怖を感じる。  ヒナタが逃げようとした次の瞬間にはスライムの体から触手が伸び、彼の首に巻き付いた。 「うぅッ」  苦しさで意識が遠くなる。何が起きたのか理解できない。 「ぐっ、かはっ」  次の瞬間には苦しさは消えたが、首周りにはまだ違和感がある。 「これでキミは僕の奴隷だね」  あまりの出来事に言葉を失うヒナタの前で、スライムはにっこりと笑ってみせる。 「一体、何を」  ヒナタは空恐ろしいものを感じずにはいられなかったが、そこで彼は自分の首に何かが巻きついていることに気づいた。  どうやらそれは首輪のようだ。 「これって」 「その首輪はね、付けた相手を奴隷にできる物なんだ」  得意げに言い放つと、スライムは柔らかそうな体をぷるんっと震わせた。 「今日から僕はキミのご主人様だ。これからよろしくね」  スライムは楽し気にそう言うと、再びヒナタの顔に体を擦り付けてきた。 (こいつは魔物だ。俺は今その魔物に支配されている)  そう思うと全身の血の気が引いてくようだった。 「ふざけんなよ。俺はただついて来ていいと言っただけで、こんな不当な契約に同意したつもりはないぞ!」  顔を引きつらせながらヒナタは怒鳴るが、その途端首輪から電流のような痛みが走った。 「んぎっ」 「逆らったらこうだからね」  ヒナタは地面に膝をつくと、恨めし気な目でスライムを見上げる。 「ついて来ていいと言ったのはキミだよ。僕のお供になるということは、キミの命運を全部僕が握るって意味だから」  スライムは勝ち誇ったように言った。
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