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「ああ! もう何でこんな事になってるのよ!」
「あんたがもうちょっと進もうって言ったからでしょうが!」
あわててミレルの口を塞ぐ。モガモガ煩い。
ガサと少し先で響いた草葉を引きずる音に心臓がバクリと大きく鳴った。
ドスドスというその太く重たい足音は次第に大きくなりながら近づいてくる。
ミレルも振り上げた拳をそのままに、微妙な姿で固まっている。
あ、バランスやばい、そのままそのまま、そのままもうちょっと倒れないで!
まもなくフゴと大きく荒い鼻息がほんの1メートルほど先で草や木々をなぎ倒しながら通り過ぎ、追加でしばらく息を潜めてようやく音は消え去った。
ふぅ、と息を吐く。
ミレルはすとんとお尻から倒れて天を仰いでハァハァと息を吐いていた。
私たちは駆け出しの冒険者で、ちょっと失敗したのだ。
ここはコイロスの森。
私たちの住むクラジャ村からすぐの森で、私たちがいつも探検していたのは『手前森』と呼ばれる日帰りができるところだった。
出てくるモンスターといえばミニラビットとかフライングトードとか、そんなに攻撃力が高くないものばかり。ようはよっぽどのヘマをしなけりゃ大怪我しようがないような安全な初心者向けの場所、のはずなのだ。
特に今日はぽかぽかと天気が良い。木立の間から光が差し込むお散歩日和な森の入口に立ちいったまではよかった。
けれども今私たちがいるのは、その見晴らしのいい森から更に踏み込んだ鬱蒼とした森の中、いわゆる『奥の森』のど真ん中だった。
なんでこんな事になってるかっていうと、今日がカルロの誕生日だからだ。
カルロは私らと同じ16歳。クラジャ村で同じ年に生まれた幼馴染は8人いて、皆仲良し。それで誕生日にはサプライズパーティをすることになっている。みんな知っているからサプライズでは全然ないような気はするけれど。
これまでは徒弟先でもらったお小遣いを集めてみんなで一つ何かをプレゼントをした。でも今年はみんな16歳になる。だから一人前として働き初める。それでカルロは一番最初に誕生日を迎えたミレルに、この森の木の実とフルーツで作った特製ケーキを振るまったんだ。カルロはレストランで働いてたから。
形はちょっと不恰好だったけどすっごい美味しかったらしくて、そんでカルロはすっごい得意げで、なんとなく自分達の仕事したのをプレゼントしたいねってなったんだ。
革細工職人になったファレは包丁入れを作るとか張り切ってたけど、困ったのは私たち。私とミレルは正式に冒険者登録をした、というか何でも屋になったから、これといってプレゼントするものがない。
だから美味しい素材を求めてちょっとチャレンジをした、結果がこれなんだよ!
「リザが様子を見るだけっていったのに」
「いやだって、本当にいると思わなかったんだもんアハハ」
「ふざけんな! ビッグボアなんて私たちが敵うわけないじゃんか!」
「ちょ、声小さく、小さく」
「ぁぅぁぅ」
ビッグボアというのは大きなイノシシ型の魔物だ。うん……無謀。
すでにここは森の奥。
手前森より奥の森のほうが当然珍しいものが取れる。それで奥の森入口付近でビッグボアの足跡をみつけてトレースしてたら本物に遭遇して気づかれて、逆に追い回されてここがどこだかもうわかんない。
太陽で方角を調べようとしても緑は深く、わさわさと高いところまで茂っていて全然わかんないんだ。
しかも。
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