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罠の方式にはいくつかあるけど、このくくり罠は獲物がいつも通るルート上に設置するか、その先に餌を置いておびき寄せるのが一般的。その場合は獲物が目的に向かって一目散にやってくるところをうまく罠にかけるんだ。
けれどもビッグボアがいつも通る道なんてわかるわけない。そうすると、後の方法、獲物の進行方向上に罠を設置するしかなくて、つまり進行方向がズレると全然意味がないわけで。つまりそれを制御できる囮が必要なんだけど。
だってほら、囮になりそうなサンドウィッチは既にビッグボアに食べられてしまった。そうするとやっぱり囮って。弓持ちで遠隔攻撃できる私より剣で近距離攻撃しかできないミレルのほうがいい……ような?
チロリとミレルを見るとギっと睨まれた。
「いやだってどっちか囮にならないとしょうがないじゃん?」
「しょうがないのはわかるけどリザでいいじゃん。リザのほうが身軽でしょ?」
「えっとえっと私のほうが手先が細かいからビッグボアに縄を投げたりできるかなーとか? ホラ投擲的な意味で」
「いやさ、猛スピードで襲ってくるビッグボアに後ろから縄をかけるとかないわー。投擲って言っても弓で射るのとロープ投げは全然違うでしょうが?」
「あの、タイミングとか」
「ジャンケン」
「えっと」
「ジャンケン」
「あの」
「勝ったほうが囮になるの。オケ? そうじゃなきゃ私は降りるわ」
ミレルの声は妙に低く、有無を言わさぬ迫力がある。
ミレルを説得できそうにない。まあ、実際のところどっちが囮でも変わりはしない。そもそもビッグボアを倒したいと言ったのは私の方だし。
再びゴクリと喉が鳴る。
うう、仕方がない。ちょっとだけ間合いを取る。
ええと、これは結構危険で? いやだってビッグボアだもの。じゃぁやめるのかっていうとなんとなくもう止められない気分。だってサンドウィッチの恨みもあるし、そもそもビッグボアを諦めても無事にこの奥の森を出られるかよくわからないし、ここからホーク鳥の岩山までいくと多分夜になっちゃってプレゼントに間に合わない。サプライズパーティ今日だし。
流石にプレゼントなしじゃ格好がつかないよね。ビッグボアなら誰も何も言えない立派なプレゼントになるわけだし? うん、早くビッグボアを仕留めないと。どうやって持って帰るかは別として。
そんな逡巡をしている間に無情にもミレルの『じゃんけん』という声が響く。えっとえっと何を出せばビッグボアっぽい奴。
そう思って私は渾身の力で拳を繰り出し、結果、私は勝った。やった!
「勝ったほうが囮だからね!」
「あ……」
試合に勝って勝負に負けた感。
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