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ティルには感情がない。不運にも数年前に事故に遭い、神に奪われてしまったのだ。一度神に盗られたものを取り返す術は今のところ存在しない。
そのため仕方のないことであるが、人を弄るのが好きなKにとっては、ティルのことをいくら弄っても何も反応されないのが面白くなかった。近くにおいて貰った紙をわざわざKから離れたコルクボードに貼り付けたのだって嫌がらせだ。コルクボードにはったときは手元に持っていき、机に置かれたときはコルクに貼る。けれど、一度たりとも嫌な顔も、苦笑すらされたことがない。
Kはコーヒーを置き、釘と同じように影でできた手を仕舞って椅子から浮き上がる。眠たそうに中身のないズボンの裾を引きずりながら飛行し、文字でびっしり埋まった紙の前に止まった。怠そうに首を振り、腕の代わりに紙をとめていた釘を右手の骨の形に変える。
ひらり落ちた紙をキャッチし顔の前に浮かべて、ようやくスケジュールに目を通した。
ふと気になったことがあったのか、影で今度は左手の骨格を作り出し、親指で眼帯をちょっとめくった。目を使わなくても権力を使えば物が見えるが、色は肉眼でないと分からない。
色を確認したKは嫌な予感が当たったと舌を出した。後半の予定に不吉な赤いマーカーが引かれていた。
〈一班カサン 確認〉
「そうですか……」
眼帯の下からティルの顔をチラリと見やる。彼が予定を書き間違えるわけがない。つまりこれは今日絶対にやらなければならないタスクだ。唇をとがらせ頬を膨らませるが、ふてくされる隊長にねぎらいの言葉一つすら無い。Kはこれ以上ティルを弄る気も湧かないと言わんばかりの浮かない顔で、ふらふらと部屋から出て行った。
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