5人が本棚に入れています
本棚に追加
1-2
Kは前半の予定を完璧に片付け、昼食を食べて後半戦に取り掛かろうとしていた。他人に気持ちを悟られないようにいつも通り軽快な口笛を吹きながら廊下を進む。そして、部屋に戻り後半の予定を確認して、先に終わらせても問題の無い課題を先に片付けてしまうことにした。
Kはティルが頑張って組んだスケジュールだろうが、文句を言われなければなんら問題は無いと思っている。
しかし、そうやって後ろへ後ろへとずらし見ないようにしていた赤いマーカーのついた予定も、他の仕事をすっかり片付けてしまうと流石にやらざるを得なくなる。
決してサボって良い仕事ではないことは分かっていた。しかし今日はどうしても一班に行きたくない。
がらんとした人気の無い廊下でふう、とため息をついた。
「わっ!」
人がいないと思っていたと思っていたのに、あろうことか前から額をちょん、と押され、軽く後ろによろめく。一瞬何が起こったのか分からなかったようで口先を丸く開けた。
「ゼン! どうしてここに」
「問題でも?」
顔を上げると背の高い黒髪の、顔に四本の大きな傷を持った青年が見下ろしていた。今日は腰まである髪を縛らず自然に垂らしている。彼はKが一番の信頼を寄せている部下のひとり、副隊長のゼンだ。Kは目だが、ゼンは鼻から下を包帯で覆っている。目は開かないため、表情の判別は困難を極める、はずだがゼンがびくりと身体を震わせたKのことを笑っているのは明らかだ。怪我さえなければ表情豊かだったのだろう。
数年前、酷い怪我を負い生死の境をさまよったゼンに手足を移植した。Kに手足がないのはそういう理由だ。Kのおかげで今のゼンがあるのでゼンはKに対して隊長、副隊長の域を超えた忠誠心を持っている。しかし、同時にKがそう望んだために古くからの友人のようにも接していた。
「それに、足はある。君が気が付かなかったんだろ」
「その足元々私の物だから」
「……君の体には消音性があるのか」
最初のコメントを投稿しよう!