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 一階に降りてすぐ正面にある一班の事務所をそうっと覗き、音を出さずにドアを引いて部屋に滑り込む。  中は広く机がいくつか並べてあり、壁にはユニオン全域の地図や大まかなタスクリストなどが貼られていた。窓からは訓練所があり、外で権力の練習をしている隊員の姿が見える。Kはゆっくり部屋を見渡し、隊長が突然やってきたことに気がついた数人に漆黒の手でしぃ、と合図をした。そして裾や袖を引っかけないようにゆっくり壁際を移動し、集中して書類に向かっている赤髪の後ろにスタンバイする。 「こぉんにちはぁー。ふふっ、こんにちはセドリック班長」  山のような資料のラストスパートにさしかかり周りの情報をシャットアウトしていたセドリックの耳元で突然怪しくささやく。 「うわああいつからいたのKちゃん!」  セドリックは仰天して女とは思えぬ野太い声で悲鳴を上げ書類を宙にぶん投げた。そして彼女の悲鳴に驚愕した隊員が数名、期待通りびっくりして肩を震わせる。Kは目の前を泳ぐ紙を影で摘まみながらふふふ、と楽しそうに笑った。 「して、カサンは元気ですか」  リックといっしょに書類を拾い上げながら、彼女にしか聞こえないように声を潜めて本題に入る。リックは一瞬何のことか分からない、と首をかしげた。 「……あ、ああ、カサンならあそこにいるわよ」  数秒後思い出したようにそっと指さした先の訓練所では、乾きかけの草のような淡い緑髪の少年が、一回り体格の良い黒髪の先輩に回復の権力の使い方を教わっていた。
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