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 わざとナイフで指を切った先輩の傷口を見つめ、稲穂のような綺麗な金色の目を細め傷が治るようにと祈る。紫色のかすかな光が胸に当てた右手から切った指に流れ込み、小さな傷が塞がっていった。先輩が自分の目をさして何かを言い、もう一度小刀で左手の人差し指を軽く切る。カサンは目を開いてもう一度右手を胸に当てる。今度は何も起こらなかった。必死に右手を握りしめるが、やはり何も起こらなかった。 「……」  リックは全員把握しているはずの班員の事が一瞬とはいえ思い出せなかったことに驚いていた。それよりもショックを受けていたのは隊長だ。  彼が感じていた悪い予感は的中した。言葉を失って呆然とその場に静止している。  練習場を見つめ急に黙り込んだ隊長と班長を見た班員は、少し離れたところで二人と目線の先とを不安そうに見てはひそひそと二人にしか分からない原因を探っていた。 「リック、カサンは一班から転属させます。今日中に転属届を書いてティルまで。残業はしないように。ではお願いしまぁす」 「今何時だと思ってんのよ!」  仮面を道化師のものに付け替えたようにいひひ、と笑う浮遊生物と急に大きな声を上げる班長を周りの数人が一斉に見た。 「予定表を見てください、ティルが精一杯頑張って作ってくれたんですよ」 「どの口が! 四時間前の予定よKちゃんが来るのは!」  もう少しで全部終わらせて定時帰りできそうだったのに、と文句をたれるリックにKは再度「よろしくお願いしまーす」と加えて窓から飛び去ってしまう。 「あんの隊長!」 「……班長、何かお手伝いましょうか」  撃沈したセドリックに水色のポニーテールが声をかけた。まだ成人していない、つい二年前に部隊に入ったばかりの遊びたい盛りだ。 「ありがとう、でも大丈夫よ。あんた達はさっさと帰りなさい」 「……わかりました。頑張ってくださいセドリック班長」 「はぁい。そうだタリアード、あんたカサンと仲いいわよね」 「? はい、同期ですから」  よかった、とリックは優しく笑って少女に「仕事が終わったら来るように伝えて」と机の引き出しから二人分の飴を出して渡した。少女は目を輝かせてひとつを口に放り込み、ぺこりと頭を下げるとまっすぐカサンという少年の元に駆けて行った。
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