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その後
撮影が終わってからも、定期的に集まろうという事になった。
いつものように公園に行くと、律くんがいた。公園のテーブルで黙々と何かを書いている。
「あれ? 希くんは?」
「ん? 家で寝てる」
「そうなんだ」
律くんはこっちを向かずに、何かをずっと書き続けている。
「何書いてるの?」
「えっ? 映像化コンテストに出す脚本。ちなみに、次にアオがヒロインする話、もう出来上がっているからね!」
次の私の役は、“ アオちゃん ”か。
律くんは、文章が映像に仕上がる事を実際に見て、感動して、書く事に本気で目覚めたらしい。
しばらくしてから、あっちゃんと希くんが来た。
「柚葉、これからも演技やるの?」
あっちゃんに問われると
「もちろん!」
と、私は迷わずにすぐ答えた。
「じゃあ、はい! これ、俺もってたわ。あげる! 役に立つのか分からないけれど」
あっちゃんが私の為に沢山の事を書いてくれたノート。絶対に役立つ。内容もだけど、きっとこれから、心の支えにもなると思う。パラパラとめくると、以前よりも更に書いてくれていた。演技以外の事も書いてくれていて、全部のページがびっしりと埋まっていた。帰ったら全部読み直そう。新しく書いてくれたページもすぐに読もう。
「ありがとう!」
「いえいえ、あ、そうだ! 北海道がロケ地の全国映画のオーディションあるんだけど受けてみる? 高校生の話だから長期休みに撮影やるとおもうよ」
「オーディションって聞いただけでドキドキする。でも一緒に受けるなら大丈夫かも!」
「よし! じゃあ、対策考えよう。まずリスト選考があるから、書き方を……」
「あ、みんな聞いて! 映画のコンテスト無事に応募出来たよ! 学生部門に応募したんだけど、学生応援企画で、応募した作品、そこのサイトで特集掲載してくれるんだって! 沢山の人に見て貰えるっぽい! そして結果も楽しみ。ねぇねぇ、次の映画撮影の話もしようよ!」
希くんが目を輝かせていた。
家に帰ると、あっちゃんが書いてくれたノートを開いた。演技以外にも、ためになるからって、ダンスの基本とかも書いてある。
本当、小さい頃は無口で冷静なイメージだったのに。今じゃあとても情熱的な人!
めくっていくと、最後の五ページには、あっちゃんが書いたコウの人生が書いてあった。
私の書いたナツのものと違って、物凄く細かい。生きていた頃の話で、嫌いだったトマトが好きになった。きっかけが自分で植えて育てたトマトが美味しく感じたから。とか、そんな事まで書いてある。びっしり小さな文字で書いてあり、全部読んでみた。
ひとつ気になる部分があった。
『六歳、七月三日。ナツと出会う。きっかけは夕方、僕がいつも遊んでいた森に、ナツがお母さんと一緒に来た。そして森の小川の近くで花火をしていた。そこに僕が偶然通りかかる。花火なんてした事がなかったから、ずっと棒から火が花のように出てきて不思議だった。ずっと、その火を眺めていた。そしたらナツがこっちに来た。一緒に花火をしようと声をかけてくれた。僕は、花火に夢中になっているナツの事ばかり見ていた。友達がいなかったから、とても嬉しかった。話しかけてくれた事が。その時に「花火大会の花火はもっと凄いから! 今度一緒に行こう?」と誘ってくれた』
これ、私とあっちゃんの間でリアルにあった出来事だ。
やっぱり映画のあのラストって……。私とあっちゃんの話?
しかも、読み進めていくと「生きていた頃は、毎年花火を見かけるたびにナツを思い出していた」って内容が書いてあった。
でも、あっちゃん、久しぶりに再会した時「誰?」って私に言ってきた気がする。全く覚えていない雰囲気だったし。もしかして覚えていない振りをしていたの? 声をかけてくれたのも、私だったから?
とりあえず、聞いてみよう!
『今ノート読んだよ! 沢山書いてくれてありがとう! とても勉強になります! ところでコウの生い立ちのやつ、小さい頃の私達のリアルな出来事と重なりすぎるんだけど、どういう事?』
メッセージを送るとすぐに返事が来た。
『こういう事!』
なんで覚えてない振りをしたんだろう。次会った時、理由聞いてみようかな?
私はそのメッセージを見つめながら、微笑んだ。
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