ペトリコールシネマ

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 大きなショッピングビルの最上階に着くと、映画館独特の薄暗い空間が広がった。 壁には大きなポスターが競い合うように貼られ、券売カウンターではこれから見る映画に胸を躍らせる人々が列をなしていた。 その間を縫うようにスタッフがすり抜ける。他の映画館と何ら変わりのない光景だ。 しかし、どこかデパートの化粧品売り場のような居心地の悪さを感じる。その正体が分からないまま、明里は列の最後尾にそっと並んだ。 「いらっしゃいませ。ご覧になる映画はお決まりですか?」  明里が券売カウンターの前まで進むと、にこやかにスタッフが迎えてくれた。 そういえばまだ決めていなかったなと思い、カウンター上部の上映作品一覧を見上げる。 すでに見た作品もいくつかあった。 「えーっとじゃあ、『心をこめて』を1枚で」 「かしこまりました。それでは、ストロベリーの香りですね」 「え? いや……」  スタッフの淡々とした声に、思わず怪訝な反応をしてしまう。 雨上がりの虹? 映画の作品名だろうか。 『心をこめて』をどう聞き間違えたら『雨上がりの虹』になるのか。 そもそも雨上がりの虹とは一体なんなのだ。
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