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意を決して宏美は伝票を篤の前に置き、入手経路を説明した。「このピアスですが、主人が別の女性と高級ホテルに宿泊した時の忘れ物のようです。日付は4/10。篤さんの奥様、その日はご自宅にいらっしゃいましたか? 幼稚園の入園式の日です」
ピアスを見つめていた篤は顔を上げ、宏美を見た。取り乱す事もなく淡々と話す宏美に、篤は血の気が引くのを感じた。
4/10――この日は確か、新の入園式だというのに、急に入った仕事が立て込んでいるから帰れない、会社に泊まると言い残し、結局百合は新の入園を祝う事もなく、家に帰っても来なかった。
「あの・・・・篤さんの前で突然泣いてしまった日、覚えていますか?」
「はい。よく覚えています」
「実はあの時、見知らぬ高級ホテルから連絡があったのです。私は宿泊した事もありません。夫と、私ではない『奥様』と呼ばれている別の女性が、4/10に熱海のホテルに宿泊したようで、その時の忘れ物が見つかったと自宅に電話があったのです。今、目の前にあるピアスは、そのホテルから送られてきたものです。夫に見つかるといけないと思って、先程詩歌が開けてしまった玩具箱に、隠していました。あの人、子供の物なんかに見向きもしませんから」
「――!」
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