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篤は息を呑んだ。まさかそのような経緯で宏美が百合のピアスを手にしたとは、想像もつかなかった。
「あ・・・・ちょっと待ってください・・・・えー・・・・という事はつまり、僕の妻と・・・・宏美さんの旦那さんは・・・・ええええ・・・・噓だろ・・・・」
恐ろしい想像を張り巡らせ、青い顔で呟いた。「二人揃って・・・・僕たちや子供を裏切って・・・・よりにもよってそんな、入園式の祝いも放っておいて・・・・熱海へ行ったというのか・・・・・・・・」
宅配の伝票の控えを見ると、確かに静岡県熱海市にある月野リゾートホテルが差出人となっていた。宛名は関口宏美様となっている。彼女が嘘を言っている訳ではないのが明白だ。
頭が混乱した。急に沢山の情報を受け取ってしまったので、脳内の処理が追い付かない。以前自分の前で宏美が泣いてしまったのは、急に夫の浮気を聞かされ、動揺してしまった結果だろうと推測される。
「この片方のピアスが奥様のものなら、間違いありません。ホテルの人が私に言ったのです。旦那様からのプレゼントで大切な物だから、見つかって良かったですね、と」
「旦那様からのプレゼント? 僕はこのピアスを妻にプレゼントした記憶はありません」
「でしょうね。恐らく私の主人から、篤さんの奥様への贈り物だと思います」
宏美は悲しげに微笑んだ。「私、ピアスはしていないのです。めぼしいアクセサリーは、母から貰った真珠のイヤリングしか持っていません。ピアスはおろか、イヤリングを主人にプレゼントして貰った事もありません」
言っていて悲しくなってきた。宏美は一度目を伏せ、しっかりと見開いた。今は篤の方が混乱しているのだ。自分がしっかりしなければ、と気持ちを奮い立たせた。
「今までの話を総合すると、私の主人の浮気相手は・・・・篤さんの奥様という事になりますよね」
「あ・・・・そう・・・・なりますね・・・・」
宏美の言葉を受け、脳内で認識させると脂汗が出てきた。わき腹が鋭い何かで突かれたように痛い。シクシクとそこが痛み出し、身体が不調を起こし始めた。
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