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篤は宏美を見て、女性に対しての考えが変わった。子供に無償の愛情を向ける、優しい女性も本当にいるという事を知ったのだ。
自分みたいな男を、何の見返りも求めずに助けてくれる心優しい隣人。しかもその女性は、自分の妻も関係している不倫の事で悲しんでいる。力になりたいという気持ちの方が、悲しくうじうじとしたものより勝っていた。
「宏美さん」
自分はもっと弱いと思っていた。なよなよして、争いごとが嫌いで、Yesマンで、自分の意見をはっきりという事が出来ない性格で二十九年生きてきたのだ。それなのに今、知り合ったばかりの宏美を悲しませたくないという気持ちで、しっかりとした意思を持ち、顔を上げている。彼自身も、内心驚くほどに。
「ここはひとつ、親友(おやとも)だけでなく、サレ友としても協力しませんか? こんなに酷い事が、赦されていい筈ありません。僕は正直言って、こんな非道な事が平気でできる妻とは、離婚したいです。あ、いえ、僕の家庭も色々とありまして、決してこの浮気だけで離婚をしたいと判断しているのではなく、もっと根本的な部分で分かち合えないと感じていました。夫婦としても、人としても、彼女を尊敬できないのです」
篤のはっきりとした言葉に、宏美は気圧された。短い付き合いだが、温厚な彼がここまで言うとは思わなかったのだ。
「家庭は目に見える対価が無い分、難しいと思います。仕事は解りやすく対価というものが支払われますから。給料が良ければ、イコール単純に仕事ができるという方程式が成り立ちます。僕の妻がそうです。ただ仕事だけが出来ればいいというのは、会社の中だけで通じる話です。でも、家族や夫婦として暮らすのに、それだけでは成り立ちませんよね。家庭はもっと温かくて、優しくて、素敵なものだと・・・・宏美さん、貴女を見てはっきりと感じました」
「私を・・・・ですか?」
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