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「はい。宏美さんは何時も詩歌ちゃんに愛情をかけ、新にも愛情を向けて下さいます。百合は・・・・妻は新が産まれてから一度も、あの子に愛情らしいものは掛けてくれません。ですから、宏美さんの子育てに対する姿勢に、感動しています。何時も新を気にかけて下さって、本当に感謝しているのです。ありがとうございます」
篤が深く頭を下げた。「もし、協力頂けるなら、僕の悩みも宏美さんの悩みも、互いに共有しませんか? 二人で酷い事をするパートナー立ち向かいましょう!」
彼の言葉に、宏美の方が戸惑った。最低限の生活が保障されているこの状況を、ひと時の感情で果たして捨てる事ができるのか、と。
何の知識も、手に職も、収入も、貯金さえも無い無能な自分。しかも独り身ならともかく、子供を抱えての生活等、できる筈がない。
「あの・・・・篤さんのお言葉は、とても嬉しいです。でも・・・・私なんかには、できません。主人と別れるなんて・・・・経済力もありませんし」
宏美は目を伏せた。こうやって何時も逃げてきた。嵐が過ぎ去るのをただ待つだけ。
これからも同じ。ただ、我慢すればいいだけ――
「すみません、急に離婚なんて言い出して、混乱させてしまいましたね。僕も寝耳に水のお話でしたから、つい、興奮してしまいました。申し訳ありません」
同調しない宏美を責める事はせず、篤は軽く微笑んだ。「今日は本当にありがとうございました。今後の事をじっくり考えたいと思いますので、そろそろ帰りますね」
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