70人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
恋と呼ぶには
その想いの芽生えに気づいたのは、いつだったろう。
目覚めていなかった種子がほんの僅か、水分を受けて膨らんだのは多分――私が小学校を卒業するころではなかっただろうか。
多分、あのとき。
塾からの帰りが遅くなった日、自宅近くの小さい公園で知っている顔を見つけた。隣の家のお兄ちゃんと、向かいの家のお姉ちゃん。私たちが生まれる前から親同士が近所で仲も良く、兄弟同然に育った。
二人は同級生で、私より二つ年上だったから、当時中学二年生だったと思う。ブレザーの制服が大人びて見えて、私も早く着たいと待ちきれなかった。
声をかけようとしたけど、それを阻む雰囲気が漂っていて、私は夕暮れの中立ち尽くした。
小学生といえど、女子だからそういう空気は敏感に察知した。数年前はここで一緒に――私を含め、鬼ごっこやボールを投げ合って遊んだ『友達』が、ベンチで微笑みながら見つめ合っている。
ああ、そうなんだ。
座る位置には距離があったし、手を繋いでいたわけでもキスしていたわけでもなかったが、二人の間には誰も入りこめない繋がりがあるのだとわかってしまった。
私も、入れない。
あんなに三人、一緒だったのに。
日が暮れるまで汗だくで遊んで、妹みたいに可愛がってくれて。
でももう、あのころには戻れないんだ。
重くて赤いランドセルが音を立てないように、公園を避けて帰宅した。
そのときが芽生えだったと思う。
――恋と呼ぶには幼すぎたけれど。
最初のコメントを投稿しよう!