第1話 お隣さんは魔法使い

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 柊だった。まごうごとなく、本人であり、今、自分は空中にいた。 「!?!?」  人は驚きすぎると言葉がでないというが、自分で体感することになるとは思っていなかった。  周りには、切断されたベランダの破片。 「とりあえず、戻りましょうか」  桜井の腕を取り、軽くジャンプするように空を跳ぶと、桜井の部屋に足をつける。  怪魔も驚いたように、こちらを凝視している。 「やっぱり寄生型……」 「き、貴様ァ゛!! それ以上動いたら、こいつがどうなるかわかってるか!?」  刃のついた触手を榎田の首へ当て、叫ぶ。 「その人生きてるの?」 「生きてるとも!! 今は夢を見ているようなものだ。どうだァ゛? コイツの命が大事なら大人しくオレに乗っ取られ――――ェ゛?」  突然、目の前に倒れ込んできた榎田を支えながら、桜井は隣にいたはずの柊が、一瞬の内に怪魔の前へ移動するのを見ていた。 (オレの支配下を、強制的に解除した?) 「私のテリトリーに入ったなら覚悟してよ」 (つまり、こいつはオレと同じ虚数能力者で――)  小さな怪魔の本体を掴み、震え逃げる視線を見上げさせる。 (格う、ぇ――)  力なく項垂れる怪魔に、桜井が心配そうに覗き込めば、小さくなった触手が突然元気よく起き上がった。 「ピッピッハッピッピィーッ!!」 「は……?」  気味が悪いほど元気よく騒ぐ怪魔は、その場を何度も飛び回っている。 「どうやら、昨日倒した寄生型には仲間がいたみたいです。ねぇ、これから仲間が集まってるアジトに行って、全員殺して、自爆してきて。私の後輩に連絡しておくから、一緒に行くこと。いいね」 「ピッピッ!!」  バタバタと本能的に恐怖を抱かせる動きで触手を羽ばたかせると、外へ飛んで行った。 「すみません。巻き込んだみたいで」 「よくあることなの……?」 「ないですよ?」  柊は眠ったままの榎田の傍らに座る。 「でも、魔法使いならありえなくはない話です」  ありえなくはない話。怪魔にとっても、魔法使いがいなければ、人間との戦いは容易に片が付く。狙われるのは当たり前。自分たち監視だって、表向きの理由として、魔法使いを襲撃する怪魔から守ることを上げているのだから。 「この人、おそらく大丈夫ですが、一応病院で診てもらった方がいいと思います」 「……うん。色々連絡してすぐ戻ってくるから、ここにいてね」 「別に逃げないですよ」  魔法使いが逃げないように監視するのが、監視役の一般人側からの役目。  けど、彼女はまだ子供だ。怪魔たちからは命を狙われて、人間からも逃げることは許さないと監視され続ける。あまりにも理不尽だ。 「心配だからだよ」  桜井の表情に、壊れたドアが閉まった向こう側で、少しだけ驚いた表情の柊がいた。
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