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柊だった。まごうごとなく、本人であり、今、自分は空中にいた。
「!?!?」
人は驚きすぎると言葉がでないというが、自分で体感することになるとは思っていなかった。
周りには、切断されたベランダの破片。
「とりあえず、戻りましょうか」
桜井の腕を取り、軽くジャンプするように空を跳ぶと、桜井の部屋に足をつける。
怪魔も驚いたように、こちらを凝視している。
「やっぱり寄生型……」
「き、貴様ァ゛!! それ以上動いたら、こいつがどうなるかわかってるか!?」
刃のついた触手を榎田の首へ当て、叫ぶ。
「その人生きてるの?」
「生きてるとも!! 今は夢を見ているようなものだ。どうだァ゛? コイツの命が大事なら大人しくオレに乗っ取られ――――ェ゛?」
突然、目の前に倒れ込んできた榎田を支えながら、桜井は隣にいたはずの柊が、一瞬の内に怪魔の前へ移動するのを見ていた。
(オレの支配下を、強制的に解除した?)
「私のテリトリーに入ったなら覚悟してよ」
(つまり、こいつはオレと同じ虚数能力者で――)
小さな怪魔の本体を掴み、震え逃げる視線を見上げさせる。
(格う、ぇ――)
力なく項垂れる怪魔に、桜井が心配そうに覗き込めば、小さくなった触手が突然元気よく起き上がった。
「ピッピッハッピッピィーッ!!」
「は……?」
気味が悪いほど元気よく騒ぐ怪魔は、その場を何度も飛び回っている。
「どうやら、昨日倒した寄生型には仲間がいたみたいです。ねぇ、これから仲間が集まってるアジトに行って、全員殺して、自爆してきて。私の後輩に連絡しておくから、一緒に行くこと。いいね」
「ピッピッ!!」
バタバタと本能的に恐怖を抱かせる動きで触手を羽ばたかせると、外へ飛んで行った。
「すみません。巻き込んだみたいで」
「よくあることなの……?」
「ないですよ?」
柊は眠ったままの榎田の傍らに座る。
「でも、魔法使いならありえなくはない話です」
ありえなくはない話。怪魔にとっても、魔法使いがいなければ、人間との戦いは容易に片が付く。狙われるのは当たり前。自分たち監視だって、表向きの理由として、魔法使いを襲撃する怪魔から守ることを上げているのだから。
「この人、おそらく大丈夫ですが、一応病院で診てもらった方がいいと思います」
「……うん。色々連絡してすぐ戻ってくるから、ここにいてね」
「別に逃げないですよ」
魔法使いが逃げないように監視するのが、監視役の一般人側からの役目。
けど、彼女はまだ子供だ。怪魔たちからは命を狙われて、人間からも逃げることは許さないと監視され続ける。あまりにも理不尽だ。
「心配だからだよ」
桜井の表情に、壊れたドアが閉まった向こう側で、少しだけ驚いた表情の柊がいた。
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