本物の気持ち

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 既婚者だと知らなかったとはいえ、不倫は不倫だ。悪いことをしたんだなとなんだか気が滅入る。 「大丈夫だよ」  うつむく空木の膝をぽんと叩いて、秋元は慰めの言葉をかけてくれた。 「君は何も知らなかったんだから。騙された被害者だ」 「でも……」 「日夏夫婦には、俺が話し合いの場をプレゼントしてやった。聖路加の47階のレストランなんだけど、夜景が綺麗でなかなか良い店なんだよ。喧嘩なんかしたくなくなるようなね。……本当は君と行くために予約してたんだけど」  秋元には今日色々やりたいことがあったようだ。それも全部台無しになってしまったというのに、それでも日夏夫婦のことを思いやれるのか。 「秋元さんは優しいですね……」 「優しくなんかない! 本音は日夏をぶっ飛ばしてやりたいけど、あの夫婦の揉め事のせいで空木君に何かあったら嫌だからだ。変に恨まれて今日みたいに面倒に巻き込まれたらたまったもんじゃない!」  秋元はあくまでも空木を守るための親切だと言いたいのだろう。 「確かに今日は俺もびっくりしました」  本当に騙された。秋元の妻が現れたと思った時は空木には絶望しかなかった。 「俺もだよ。こんな嘘で君を失うなんて絶対に嫌だ。空木君と連絡がとれなくて、まさかこのまま俺と会ってくれなくなるんじゃないかと本当に怖かった」  さっきから秋元は、空木のことを想ってばかりだ。  空木のために日夏を怒り、空木のために日夏の妻に手を貸してやり、空木を失いたくないと、どれだけの時間、夜の東京の街を当てもなく探し回ってくれたのだろう。  やっとの思いで人混みの中から空木を見つけ出し、それでやる事といえば空木を空港まで送り届ける、それだけだ。  空港が見えた。  秋元との別れの時だ。
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