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「せっかく一緒に来たから搭乗口まで見送らせてほしい」
秋元は車を羽田空港の駐車場へと進める。
空港まで来てあっさり車から降ろされるかと思ったが、もう少しだけ一緒に居てくれるつもりらしい。
「秋元さん……」
——もうダメだ。
空木はすっかり秋元に惹かれている。これはもう疑いようのない感情だった。そしてこのまま、秋元と離れたくないと強く思っている。
「そうだ。博多に帰ったら、屋台であまりお酒は飲み過ぎないでね。俺と会った時みたいに」
「はいはい、わかってます。俺の酒癖は最悪でしたよね……。秋元さんには迷惑かけちゃいました」
秋元との出会いを思い出す。きっと秋元にとって災難だっただろう。
「迷惑か……。まぁ確かに俺の人生はあの時君に出会って大きく狂わされたな」
秋元は車を駐車させる。
「酔ったときの君は最高に可愛かったよ。あんな顔は俺以外の他の誰にも見せないでくれ」
「か、可愛いですか?!」
あんな顔……? 空木にはあの時の記憶がまるでない。ただ秋元は空木の醜態を広い心で受け止めてくれたようだ。
「そうだよ。すごく可愛かった。可愛すぎて危険なくらいだったよ。今も可愛いけどね」
可愛いと連呼され、妙に気恥ずかしい。
「俺が東京にいる間、君を誰かに取られそうで怖いんだ。正直に言うけど、酔った君を屋台の店から担いで家まで送り届けた時、ベッドで寝ている無防備な君を見て、俺は君を……襲いたいと思った…。だから他の男とあんまり飲むな。か、身体目的の奴もいるかもしれないし……」
秋元は心配してくれているのか。空木にしてみれば、自分ごときが屋台で一人酒を飲み過ぎようが誰も寄っても来ないと思っているのに。
「秋元さん、あの時俺を襲いたかったんですか?」
意地悪な顔で秋元に言ってやる。秋元の反応をちょっと見てみたい。
「えっ?! ごめんっ! でも手は出してない。君の許可なしにそんなこと……ただ可愛いなと死ぬほど思っただけで……誓って何もしてないっ。あ、安心してくれ……」
おい動揺し過ぎだ。秋元の様子が可笑しくてつい笑顔になる。
「わかりました。秋元さんはいい人ですからね」
面白いのでもっと揶揄おうかと思ったが、可哀想なのでやめておく。
「いい人か……。その言葉……ちょっとだけ堪えるな……」
空木の何気ない言葉をどう勘違いしたのか、秋元がショックを受けているようだ。
いい人……?
ああ。自分はいい人止まりなんじゃないかと思ったのか?
そんなこと、あるわけないのに。
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