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日夏の野郎! 結婚してるくせに俺に近づくなんて詐欺だろ!
しかももう俺は要らないだと?!
俺の二年間を返せよ!!
この感情を晴らしたくて、空木は天神の屋台でひとりヤケ酒を煽る。酒は強い方だが、かなりのハイペースの空木の様子を屋台のおじさんが心配しているのがわかる。それでも今夜は飲みたい気分だった。
「あの……どうかされたんですか?」
見知らぬ男が声をかけてきた。今の空木は愛想笑いすらできないので、完全に無視する。
「そんな飲み方、身体に良くないですよ。俺で良ければ話、聞きましょうか?」
男は遠慮なしに隣の席に座った。妙にエリートっぽい雰囲気の男だ。屋台には似つかわしくない端正な顔つきと高級スーツ。
「話すと楽になることもありますよ。ここで話してもどうせ俺は明日には東京に帰りますから、あなたとは二度と会わないだろうし、電信柱に話しかけるみたいで気楽でしょ?」
可哀想な人を放っておけない偽善者タイプの男のようだ。
確かに一人で鬱々とするより、誰でもいいから話を聞いてもらえたらスッキリするかもしれない。
「いいんですか。俺の話、暗いですよ」
「もちろん。俺はあなたの話をなんでも聞きますよ」
優しく包み込んでくれるような笑顔。その笑顔に絆されるように空木は日夏とのことを徐に話し始めた——。
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