猜疑心

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 あれから秋元は本当に毎週末、博多にやって来た。土曜の夜はいつも仕事終わりの空木を天神駅で待っている。遠目で見ても絵になる男だ。今日は土曜なのにビジネススーツを着ている。 「空木君っ」  秋元は空木を見つけると駆け寄ってきた。「ごめん、今日は俺も仕事終わりなんだ」 「無理して来なくてもいいのに。仕事は大丈夫なんですか?」  常務なんて多忙に決まってる。それなのに毎週末、空木に会いに来る秋元が心配だ。 「空木君に会えない方が俺にとっては辛いから。飛行機の中でも空港のラウンジでも仕事はできるから、問題ないよ」  ほら、やっぱり暇さえあれば仕事をしてるんじゃないか。 「空木君。俺、着いたばかりでホテルに荷物を預けたいし、今日は俺の泊まる予定のホテルで夕飯を食べないか?」 「いいですよ」  快諾し、連れてこられたのは天神駅近くのラグジュアリーホテルの13階にある、開放感あふれるレストラン&バーだった。  秋元はこういう店に慣れている様子だ。レストランの従業員に気さくに話しかけ、会話を楽しむ余裕がある。秋元にはこういった店の方がしっくりくる。いつもの屋台こそ似つかわしくない男だ。 「俺が誘ったんだ。だから今日は俺が払うから好きなもの頼んでね」 「いや、こっちまで来てもらうだけでも飛行機代とかかかってますよね。なので、割り勘でお願いします」  秋元に貸しを作るのも嫌だった。秋元は二か月前にたまたま屋台で知り合っただけの男にすぎない。 「そんなの俺が全部勝手にやってる事なんだから気にしなくていいのに。むしろ毎週俺に会ってくれるから俺が礼をしたいくらいなんだよ」 「いやいや、逆ですよ」  そんなにも空木の事が好きなのか。いや、ただ口が上手いだけの男かもしれない。 「でも、ひとつだけ空木君にお願いがあるんだ」 「何ですか?」 「再来週の木曜日なんだけど、どう頑張っても休みの都合がつかなかった。でも、その日は俺の誕生日なんだ。俺はどうしても君に会いたいんだよ」  空木は毎週木曜・日曜休みだ。  秋元の誕生日は再来週の木曜日なのか。大切な日に会いたいと思ってくれるのなら、やっぱり秋元は本気なのかもしれない。 「木曜日、日帰りになってしまうし、申し訳ないんだが、空木君に東京に来てもらうってのは無理な話かな。もちろん航空券は用意するから」  空木としては休みの日だし、毎週末こちらに来てもらってそろそろ申し訳なく思ってきたところだった。 「わかりました。俺、東京に行きますよ」 「本当か? ありがとう!」  秋元はパッと顔を輝かせている。まるで子供みたいだ。
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