猜疑心

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 それから食事の間ずっと秋元は上機嫌で、会計の時になっても「俺は今ものすごく機嫌がいいからやっぱり奢らせてくれ」と言って聞かず、レストランの代金を部屋付けにして空木からの支払いは断固拒否した。 「ありがとう。じゃあまた明日」  すぐ下の階がホテルなのだから、秋元の部屋に誘われるかと思っていたのに、秋元はそうはせずにいつも通りに空木を見送って終わりだ。 「明日は空木君が観たいと言ってた映画を見に行こう。今からでも座席指定が間に合うか見ておくよ」 「ありがとうございます。また明日」  秋元と別れ、空木は一人帰路につく。  帰り道に浮かぶのは秋元のことばかり。  確かに、「一目惚れした」「恋人になって欲しい」という類いの言葉はもらったものの、空木が返事をしていないため二人の関係性は曖昧なままだ。  ——俺はどうしたいんだ……?  秋元は完璧すぎるくらいにかっこいい。  秋元を信じてもいいのか。  もし、空木が「やっぱり秋元さんとは付き合えません」と言ったら、きっと秋元はもう空木に会いに来なくなるのだろう。  あれ……。  今、秋元に会えないことを寂しいと思った。  ——また騙されたいのか。  恋愛で痛い目に遭ったばかりなのに懲りない自分に可笑しくなってしまう。  でも秋元に出会えて良かった。  今の空木はすっかり日夏のことなどどうでもよくなっている。  もし秋元に会わなかったら今頃悶々と日夏を恨んで日々を過ごしていたかもしれない。
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